(ブルームバーグ):人工知能(AI)は英国の低迷する経済を救うもしれないが、その効果が出るタイミングは遅過ぎて現労働党政権の間に成長率を押し上げることはなさそうだ。英予算責任局(OBR)がこう分析した。
OBRによると、AIが今後10年以内に生産性の伸び率を最大0.8ポイント押し上げる可能性があり、英国の微妙な財政状況を一変させ得るという。一方で、その影響には大きな不確実性があり、効果の大半は向こう10年間の後半、つまりOBRの財政見通しや次回総選挙の時期の後に表れる可能性が高い。
長引く景気低迷を経て、より力強い成長が見込まれるという将来像を示すものだが、OBRの向こう5年間の予測では、AIが生産性の伸び率を押し上げる効果は約0.2ポイントにとどまる。
これは、2029年半ばまでの現議会の任期中に、リーブス財務相が抱える不安定な財政状況を大きく変えるには遅過ぎることを意味する。リーブス氏は、昨年の総選挙で労働党が地滑り的勝利を収めてから1年半足らずで、自身の政治的立場と世論調査で低迷する労働党政権の基盤の強化に奮闘している。
イングランド銀行(英中央銀行)のベイリー総裁ら政策当局者は、AIを産業革命やコンピューターなど過去の技術革新の波になぞらえ、大変革をもたらす汎用(はんよう)技術になり得ると評価してきた。しかし、AIが労働者に取って代わると懸念する声もある。OBRがより可能性が高いとみるJカーブ型の軌道に沿う形で雇用が当初失われる場合は特にそうだ。
ブルームバーグ・エコノミクスの英国担当チーフエコノミスト、ダン・ハンソン氏は「英国の財政課題にとって、生産性の伸び加速が万能薬であるのは周知の事実であり、AIがその解決策の一部となる可能性は十分ある」と指摘。一方で、「長期的な財政への圧力を和らげるには劇的なものでなければならない」と述べた。
また「AIの導入が労働市場に大きな混乱をもたらし、経済全体への押し上げ効果を限定的なものにしてしまうことは大きなリスクだ」と付け加えた。
OBRの評価は、AIの経済的影響について幅広い見解を示した複数の研究を検証したものだ。OBRはAIがSカーブに沿って経済的な恩恵がより早期に表れてから頭打ちになる可能性もあるとした上で、より可能性が高いのはJカーブ型の軌道だとし、恩恵がゆっくり表れ始め、その後加速していくシナリオを挙げた。
また、向こう10年で全雇用の約40%がAIの影響を大きく受ける可能性があるとOBRは推計。ただし、これらの職種の多くは、代替されるのではなく補完されるとみている。金融や専門サービスは、最も影響を受けやすい分野に含まれるという。

原題:AI May Help Britain’s Economy, But Not Soon Enough for Labour(抜粋)
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