(ブルームバーグ):日本銀行の植田和男総裁は1日、今月にも追加利上げを行う可能性を示唆した。前回実施した1月以降、最も踏み込んだ発言と言えそうだ。名古屋市で行われた金融経済懇談会で講演した。
植田総裁は18、19日に開催予定の金融政策決定会合に向けて、企業の賃上げ姿勢に関して精力的に情報収集していると説明。その上で、内外経済・物価情勢や金融資本市場の動向を、さまざまなデータや情報を基に点検・議論し、同会合で「利上げの是非について適切に判断したい」と語った。
前回の利上げが行われた1月会合の前には、植田総裁と氷見野良三副総裁が、同会合で「利上げを行うかどうか議論し、判断したい」と相次いで発言していた。植田総裁が今月会合における利上げ判断に言及したことは、約1年ぶりの政策調整に向けた地ならしとも言える。
野村証券の岩下真理エグゼクティブ金利ストラテジストは、植田総裁が10月会合後の会見で利上げの判断基準として示した春闘の初動のモメンタムについて「講演で示された図表などを見ると、利上げの準備は整ったと言っているとしか聞こえない」と指摘。12月利上げの可能性が高まったとみる。
植田総裁は利上げ判断の材料として注視する賃金動向に関して、賃上げ原資の企業収益は「関税政策の影響を加味しても、全体として高い水準が維持される見通し」と語った。現在は賃金価格設定行動が継続するかを「見極めていく段階にあり、特に来春闘に向けた初動のモメンタムを確認することが重要」との考えを改めて示した。
日銀の金融政策運営を巡っては、審議委員から利上げに前向きな発言が相次いでいることや円安進行などを背景に、市場で早期の政策調整観測が強まっている。植田総裁の発言を受けて、金利スワップ市場では同会合での利上げ予想が足元で75%程度に上昇している。
高田創氏と田村直樹氏の2審議委員は、9月に続き10月会合でも政策金利の維持に反対し、利上げを提案。小枝淳子審議委員は20日の講演で、現状の極めて低い実質金利を踏まえて金利の正常化の必要性を訴えた。増一行審議委員も同日の日本経済新聞とのインタビューで、利上げの環境は整っていると言及した。
植田総裁は講演で、円安が進んでいる為替動向については、「企業の賃金・価格設定行動が積極化する下で、過去と比べると為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている」と指摘。こうした動きが、基調的な物価上昇率に影響する可能性に留意が必要との認識を示した。
名目の政策金利から物価上昇率を差し引いた実質金利は極めて低水準で、経済・物価に対して中立的な自然利子率を大きく下回っていると指摘。利上げは緩和的な金融環境の中での調整だとし、「景気にブレーキをかけるものではなく、「安定した経済・物価の実現に向けて、アクセルをうまく緩めていくプロセスだ」とも述べた。
他の発言
- 経済・物価の見通しが実現していけば、利上げで緩和度合いを調整
- 経済・物価の中心的な見通しが実現していく確度は少しずつ高まってきている
- 遅すぎることなく早すぎることもなく緩和度合いを適切調整
- 緩和度合いの適切な調整は政府・日銀の取り組み成功につながる
1日の日本市場では、植田総裁の講演を受けて今月の利上げ観測が高まっている。長期金利(新発10年債利回り)は一時1.85%と2008年以来の水準を更新した。円は対ドルで155円台半ばに上昇。株式は大幅反落している。
日銀の利上げに向けた環境が整いつつある中、金融緩和を重視するとみられる高市早苗政権の発足が、金融政策の先行き不透明感を強めていた。一方で、政府は物価高対応を中心とした大規模な経済対策を11月に決定。円安による物価上昇を回避するため、日銀の利上げを容認するとの見方が広がっている。
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--取材協力:氏兼敬子、日高正裕.
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