(ブルームバーグ):11月30日に実施されたスイス国民投票で、超富裕層を対象に連邦相続税50%を導入する案が否決された。同案を巡っては富豪の起業家らが、成立すれば国外移住する考えを示していた。
スイス政府がこの日公表したデータによると、反対票は78.3%に上った。事前の世論調査でも否決の見通しが示されていた。投票率は43%で、すべての州で賛成が過半数に達しなかった。
財務相を兼任するケラーズッター大統領は「有権者がリスクの高い財政政策の実験を拒否したことは明らかだ」とした上で、「このような税が導入されればスイスの税制のバランスが崩れ、スイスの魅力が損なわれる可能性があった」と述べた。
この案は、左派のスイス社会民主党青年部(JUSO)が気候変動対策の財源確保を目的に提案したもの。5000万フラン(約97億円)を超える資産が相続または生前贈与される際に課税する内容で、対象は人口の上位0.03%に相当する約2500人。

富裕層が国外へ流出すれば税収が減少し、むしろ財政にマイナスになるとして、政府のほか、左派以外の全政党が同案に反対した。
スイスの鉄道車両メーカー、シュタッドラー・レールの筆頭株主ペーター・シュプーラー氏も、この案が成立すれば国外へ移住すると表明した富豪の起業家の1人で、地元メディアに対し、その場合は自身の死後に会社を売却せざるを得なくなると語っていた。
スイスはすでに富裕税を導入しており、UBSの調査によると人口100万人当たりのビリオネア(純資産10億ドル以上)の数は9人超と、西ヨーロッパの平均の5倍に上る。また、裕福な外国人が資産内容を完全に開示しないで済む特別課税制度もある。こうした富裕層による財政効果が今回の投票で考慮された可能性がある。
ケラーズッター氏は30日、相続税案が初めて公に議論された際、スイス中部の自治体を中心に「多く」の地方当局者から、富裕層が移住を検討しているとの警告を受けたと明らかにした。
今回の否決により、世界有数の富裕層居住国としてのスイスの地位が揺らぎつつあるとの懸念は緩和した。同国は富裕層を重視した銀行業界や一部の州税制を背景にその地位を築いてきたが、アジアや中東の他の金融中心地との競争が強まっている。
この日、兵役義務の対象を女性にも広げる案についても国民投票が実施されたが、賛成は15.9%にとどまり、否決された。
原題:Swiss Reject Millionaire Inheritance Tax Fearing Exodus of Rich(抜粋)
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