多くの求職者にとって就職機会は細りつつある。採用ペースは過去2年に比べ減速し、人員削減に関する報道も相次いでいる。

しかし、企業のトップレベルは事情が異なる。空きポジションは依然として豊富だ。

アナリストや人材紹介会社は、離職率を基に、「Cスイート」と呼ばれる最高幹部が引き続き積極的に採用されていると指摘する。

燃え尽き症候群(バーンアウト)や引退、業績へのプレッシャーが人材の流動性を押し上げる一因になっている。さらに、物言う株主(アクティビスト)の存在や人工知能(AI)の導入、企業の合併・買収(M&A)の活発化などを受け、取締役会が経営トップ人材の要件を見直す動きも広がっている。

リーダーシップ助言会社ラッセル・レイノルズ・アソシエーツによると、今年これまでに世界で新たに176人の最高経営責任者(CEO)が就任し、174人が退任した。

これは昨年と同程度のペース。昨年は7-9月(第3四半期)末までに新任CEOが過去最多の188人に達していた。今年の数字は、2023年同時期の157人を上回る。

S&P500種株価指数構成企業でも、同様の入れ替わりが続いている。

ラッセル・レイノルズが9-10月に実施した調査では、Cスイートの最高幹部や取締役を含む2500人超の世界のビジネスリーダーのうち、66%が転職に前向きだと回答した。今年前半の60%から上昇した。

同社によると、CEOの平均在任期間は今年、第3四半期末までで7.2年となり、前年同期の7.3年から短期化した。21年と23年には8.4年とピークを記録した。

ラッセル・レイノルズの米州共同責任者キンバリー・アーチャー氏によれば、幹部はより良い企業文化や強力なリーダーシップを求めていたり、評価されていると感じたがっていたりする。

また、エグゼクティブサーチ会社コーン・フェリーの北米プレジデント、ラディカ・パパンドレウ氏はインタビューで、燃え尽きて引退を考えたり、フルタイム勤務を必要としない「フラクショナル(部分的)」にコミットするCEOや最高マーケティング責任者(CMO)といった、より柔軟な働き方に移行することを望む人もいると説明した。

パパンドレウ氏によれば、経営幹部の疲弊はここ数年の負荷が積み重なった結果だ。近年トップの座にあった幹部は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)対応やその後の大量離職の時期を乗り切った後、現在はマクロ経済の不安定化や関税問題、AIなどに対応している。

シニアリーダーに対する強い需要は、従来型の人材紹介会社が苦戦する中、エグゼクティブサーチ会社の収益を支えている。

アドベント・インターナショナルとコーヴェクス・マネジメントが主導するグループによる買収が予定されているハイドリック・アンド・ストラグルズ・インターナショナルは、第3四半期の純収入が16%増加した。

アナリストは、コーン・フェリーについても4.6%増収を見込んでいる。

トゥルイスト・セキュリティーズのアナリスト、トビー・サマー氏は、最近のM&A活発化も幹部人材需要を押し上げていると言う。

ソマー氏はインタビューで「企業が分社化すれば、新たな役職が生まれることがある。最高財務責任者(CFO)は1人ではなく2人必要になる」と説明した。

M&Aによって職を失った幹部にも需要がある。「他社にとって、即戦力となる優れた人材と見なされ得る」と同氏は付け加えた。

原題:The Job Market Looks Bleak, Unless You’re in the Corner Office(抜粋)

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