ゲーム大手の米エレクトロニック・アーツ(EA)に対する巨額の買収劇は、世界で好調を維持するゲーム株にとって大きな転換点となるかもしれない。コンテンツの開発競争が今後高額化していく恐れや業界全体の過熱を示唆している可能性があるためだ。

サウジアラビアの政府系ファンドやトランプ米大統領の娘婿であるクシュナー氏らの投資家グループとEAが9月に合意した買収額は約550億ドル(約8兆6000億円)と、金融機関からの借り入れも使うレバレッジド・バイアウト(LBO)では過去最大に達した。

約4000億ドルの世界のゲーム市場にとっては、EAの非公開化は業界を読み解く上で欠かせないデータの発信元を失うことになり、米投資銀行TDカウエンのアナリスト、ダグ・クロイツ氏は「最悪のケースでは投資家が『もっと大手の上場企業が多い業界に移りたい』と考えかねない」とゲーム株からの投資家離散を警戒する。

日米のゲーム株は今年、6月に発売された任天堂の家庭用ゲーム機「スイッチ2」の好調や米テイクツー・インタラクティブ・ソフトウエアの人気ゲームシリーズの最新作「グランド・セフト・オート(GTA)VI」への期待で上昇基調が継続。日本ではソニーグループやスクウェア・エニックス・ホールディングスが最高値を更新した。

代表的なゲーム株に投資する上場投資信託のラウンドヒル・ビデオゲームETFは11月中旬までに米S&P500種株価指数と比べ2倍以上上昇。人工知能(AI)ブームをけん引する半導体のエヌビディアやグーグルを傘下に置くアルファベットなど、米国の主要テクノロジー株で構成される「マグニフィセントセブン」もアウトパフォームしている。

市場調査会社のサカーナによると、外出が制限された新型コロナ禍以降もゲーム市場の好調は続き、2024年は米消費者の71%がゲームで遊んだ。スイッチ2の米国での販売開始から数カ月のペースは史上最速で、来年発売予定のGTA VIの開発費は10億ドル超と最も高額なコンテンツになる可能性が予想されている。

ラウンドヒル・ファイナンシャルのデイブ・マッツァ最高経営責任者(CEO)は、EAの非公開化は投資家が株式市場で十分織り込まれていない評価余地があるとみる表れで、業界各社の価値の高まりを示し、業界にとっての強気材料だとの見方をした。

 

一方、英国を拠点に日本株の調査会社を率い、生涯ゲーマーを自負するペラム・スミザース氏は、EA買収がゲーム業界にもたらすのは「勝者と敗者の二極化だ」と言う。同氏によると、EAに対する高い評価額は今後のコンテンツ開発に大規模な予算が投じられることを意味し、「高額なゲームを作れる企業とそうでない企業との差が露呈する」と予測した。

EAの高額買収は、ゲーム業界全体の過熱を示唆している可能性もある。長引く物価高や関税政策の影響で足元の米経済は減速方向にあり、企業は相次いでレイオフに動き、11月の消費者信頼感指数は7カ月ぶりの大幅低下となった。

また、ソニーGとマイクロソフトはゲーム機の米販売価格を既に引き上げ、ブルームバーグ・インテリジェンスは任天堂もスイッチ2の価格を最大7%引き上げる必要があるとみるが、値上げ後の需要の先行きには不透明感もある。

Etoroのグローバル市場アナリスト、ラレ・アコナー氏は今後ゲーム株では多角的な収益源を持つ企業が有望との認識だ。ハード、ソフトの需要変動の影響を受けにくく、常に収益につなげることができる知的財産(IP)を持つことが重要で、日本のゲーム企業はこうした「エバグリーンIP」の活用がうまいとアコナー氏は指摘。注目銘柄にカプコンやコナミグループを挙げた。

今年8月に上場来高値を更新した任天堂も、エバグリーンIPを使って収益源を多様化させている1社。人気キャラクターの「スーパーマリオブラザーズ」はゲームソフトを中心に映画にも進出し、大阪と米ロサンゼルスのユニバーサル・スタジオには「スーパー・ニンテンドー・ワールド」が広がる。

今後のゲーム株は、米大手テック企業や日本のソフトバンクグループなどが巨額投資を続ける人工知能(AI)関連株と投資資金の獲得を争わなければならない。大型タイトルの投入や上場企業の減少は、今後買いが入るきっかけの一つになり得る。

当初予定から延期し、来年11月に「GTA VI」を発売する米テイクツーは主役となる可能性があり、ウェドブッシュ証券アナリストのジョエル・クリナ氏はGTA VIがシリーズでは「史上最大のヒットになる」と予測。逆に期待はずれに終われば、業界全体も売られる可能性があると警戒感を示した。前作のGTA Vの初日売上高は8億ドル、13年以降の累計販売本数は2億1500万本超だった。

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