香港北東部、大埔区のマンション群「宏福苑」で26日に発生した大規模火災で確認された犠牲者の数は増加を続け、過去数十年で最悪に達した。焼け跡となった7棟では救急隊員らが生存者の捜索を急ぐ一方、当局は責任の所在を明らかにしようとしている。

燃え続ける「宏福苑」の1棟(27日、香港・大埔区)

消防当局の最新の発表によると、火災による死者数は少なくとも94人、負傷者数は76人に上っている。

消防局の陳慶勇(デレク・チャン)副局長は「消火活動はほぼ完了している。7棟全ての住戸に強制的に立ち入り、中に閉じ込められている人がいないかを確認する。この作業は28日午前9時までに完了する見込みだ」と述べた。

行方不明者の数は不明。宏福苑には火災発生前、約4600人が居住していた。陳氏は、捜索・救助活動完了後に行方不明者数を確認すると説明した。

火災は26日午後に発生し、27日にようやく鎮圧されたが、なお小さな火がいくつかの部屋から目撃された。宏福苑は3億1550万香港ドル(約63億5000万円)をかけて改修中だったため竹製の足場が組まれていたが、1棟を覆うこの足場と緑のネットに炎が燃え上がり、大陸からの冷たく乾燥した風にあおられて瞬く前に棟から棟へと広がった。

住民らは火の広がりの速さに驚き、必死に脱出しようとした。警報は鳴らず、親戚から「すぐに避難しろ」と電話を受けた人や、友人から知らせを受けて現場に駆け戻った人もいた。車いすの高齢者らも、なんとか逃げようとしていた。

香港の李家超行政長官は27日、火災現場を視察。この前日には行方不明者が数百人に上ると述べていたが、現場で行われた記者会見では、住民全員の行方が確認されたのか明らかにせず、被災した世帯には見舞金として1万香港ドルを支給すると発表した。また、竹製の足場の利用を撤廃し、金属製に置き換えると表明。これに先立ち、香港全域で全ての大型改修工事を点検するよう李長官は命じていた。

被災した住民らは一時的な施設に避難することになる。その後、宏福苑のほぼ全世帯を収容できる仮設住宅が完成するという。

被災した住民向けに寄付された物資を配布するボランティアら

火災は香港にとって微妙な時期に発生した。大規模な街頭デモ、国家安全法施行による民主派締め付け、厳格なコロナ対策で損ねたイメージの回復に取り組んでいたさなかで、当局が大々的に宣伝する立法会(議会)選挙の投開票は12月7日に迫る。この選挙は、中国政府が「愛国者」と認めない候補者を事実上排除する国安法を施行して以来2度目となるはずだが、李長官は予定通り実施するか数日以内に決定する見通しだ。

中国の習近平国家主席は、火災の影響を最小限抑えるべく、全力を尽くすよう求めた。

前例なし

世界最多の高層ビルが林立する香港で、これほどの規模の火災拡大は前例がない。

住民の1人、ピーター・レオンさん(71)が26日午後4時前にマンションへ戻ると、建物は炎に包まれていた。ただ、同氏が住む28階の部屋は、宏福苑の8棟のうち唯一燃えなかった棟にあった。

レオンさんは「恐ろしい光景だった。これほど長く生きてきて、人生で最も恐怖を感じた。心が張り裂けそうだ。あの光景は頭から離れない」と振り返った。

フォンさん(40)は、26日午後8時が70歳の母親と最後に連絡が取れた時間だと語った。母親は50歳の隣人と共に、27階の浴室に避難していたという。

フォンさんは「母が今どうしているか分からない。救助隊はまだ私たちの階まで来ていない」と語る。母親はアパートを出る際、携帯電話を持って行かなかった。26日深夜までに隣人の携帯電話のバッテリーが切れ、連絡は完全に途絶えた。

チョン・ワイマンさん(75)は午後3時ごろ、建物が炎上する前に隣人が「火事だ」と叫ぶ声を聞いた。夫妻は直ちにアパートから飛び出し、15階分歩いて避難した。ワイマンさんは「ショックで疲れすら感じなかった」と振り返った。近くに住む息子宅で一夜を明かしたという。

数百人の消防士が鎮火に当たった一方、建物内に閉じ込められた住民たちは緊急サービスに必死の連絡を試みた。ペットの救出を懇願する声もあった。だが、火は猛烈な熱で上層階へ燃え広がり、救助隊の一部の建物への進入を阻んだ。

警察が現場を封鎖する中、住民や家族は焼け跡となった建物を見つめ、身内の安否情報を求めている。救助隊は引き続き生存者を発見しており、さらなる生存者発見への期待もある。

火災があった香港の宏福苑。消防隊による約24時間の消火活動が行われた。

安全基準

香港では近年、高層ビル火災が複数発生しているが、死者はまれだ。今回の火災以前、ここ数十年間で最も犠牲者の多かったのは1996年に九龍地区で41人が死亡した住宅火災で、防火基準の大規模な見直しにつながった。

宏福苑は1983年、補助住宅として建設され、政府の計画に基づき市場価格を下回る価格で世帯に売却された。政府声明によると、改修工事は団地の所有者団体の委託を受け、宏業建築が担当していた。

火災の原因はまだ特定されていないが、当局は建物の改修工事で用いられた安全基準について疑義を持っている。

アイリーン・チョン警視は記者会見で「建設会社の責任者が重大な過失を犯して事故を引き起こし、火災を急速に拡大させ、深刻な死傷者を出したと考える根拠が警察にはある」と述べた。

香港では、火災の拡大を防ぐため、足場に難燃性の保護ネットやその他の資材の使用が義務付けられている。香港保安局の鄧炳強(クリス・タン)局長は捜査員が火災を免れた1棟の窓にスチレンボードが貼られているのを見つけたと説明し、「このスチレンボードは極めて燃えやすく、火の回りが非常に速い。そのようなものがあるのは普通ではない」と述べた。

同局長によると、建物の覆いに使われた保護ネット、耐火布、プラスチックシートも、予想をはるかに超える激しい燃え方だった。

警察はこれまでに、宏業建築の幹部3人を過失致死の疑いで逮捕した。ブルームバーグニュースは27日に宏業建築のオフィスを訪れたがシャッターが閉まったままで、呼び鈴を繰り返し鳴らしたものの応答はなかった。電話にも反応はなかった。

 

原題:Hong Kong Death Toll Rises to 94 With Blaze Near Containment、Inside Hong Kong’s Deadly Tower Block Blaze: ‘It Was Horrifying’(抜粋)

(情報を追加して更新します)

--取材協力:Pratish Narayanan.

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