(ブルームバーグ):トランプ米大統領と中国の習近平国家主席が先月会談し、2国間対話と緊張緩和に向けた機会を得たものの、米中の激しい競争は今後も続く。シンガポールのローレンス・ウォン首相はこう見ている。
シンガポールで19日開かれた「ブルームバーグ・ニューエコノミー・フォーラム」に登壇した同首相は、「激しい競争とライバル関係が続くのは確かだ」とブルームバーグ・ニュースのジョン・ミクルスウェイト編集主幹とのインタビューで語った。
その上で、「今回は一時的な休戦、一時的な関係安定化かもしれないが、必要なことだった」と指摘。こうした安全策があることで、競争が完全なデカップリング(経済分離)や、さらに深刻な対立・衝突に陥るのを防ぐとの考えを示した。

ウォン首相(52)は、トランプ大統領が始めた関税戦争と、中国との貿易・安全保障を巡り対立の深まりが、シンガポールに繁栄をもたらしたグローバル化と自由貿易の時代を終わらせたと繰り返し警告してきた。
同首相によれば、米国による対中強硬姿勢が競争を一段とあおっている。「米国が中国に対して取るあらゆる行動は、ある意味で中国側の決意を強め、テクノロジーの自立化をさらに加速させ、成長しようという強い意志を生んでいる」と語った。
貿易に依存するシンガポールは、他の東南アジア諸国と同様に、最大の貿易相手国である中国と、最大の投資国であり主要な安全保障上の同盟国でもある米国との間で、微妙なバランスを取り続けている。

米中両国は韓国で10月末に開かれた首脳会談で緊張緩和に至ったが、中国が支配的地位を占めるレアアース(希土類)市場での販売を管理する方法を巡る協議は今も続いている。首脳会談前には、トランプ大統領と習主席が報復の応酬を繰り返し、世界貿易を脅かす状況に陥っていた。
米中2つの大国のどちらかを「われわれは選ぶ必要はない」とウォン首相は述べ、シンガポールは「個別の課題ごと」に国益という観点から関与していくと付け加えた。
同首相はまた、トランプ氏の「米国第一」主義にもかかわらず、米国はこれまで世界の平和と安定に重要な役割を果たしてきたと説明し、将来的にもその役割を果たす可能性があると予想。
「米国が世界に積極的に関与することを強く望んでいる。今ではないかもしれないし、現政権ではないかもしれないが、いずれ米国がその役割を再び担い、積極的かつ建設的に関与し、主要なパートナーすべてと良好な関係を維持するときが来るだろう」と語った。
ウォン首相の主な発言は以下の通り。
台湾
- 米国は台湾関係法と「一つの中国」政策に基づき、「現状を一方的に変更してはならないという方針を常に一貫して慎重に維持してきた」
- 「米国がこの方針をおおむね維持している限り、台湾海峡の平和と安定を保つ可能性は十分にあると思う」
東南アジア諸国連合(ASEAN)
- 域内の統合を加速し単一市場を目指したい考えを示したが、加盟国間で進展の速度が異なるため時間がかかると指摘
- 「各国の発展段階が異なる。われわれはまだ、集団的に協定交渉を行える段階には至っていない」
人工知能(AI)
- AIブームを背景に高まるエネルギー需要を踏まえ、原子力エネルギーの導入を「真剣」に検討している
- 「われわれのような小国では、必要量を満たす規模で再生可能エネルギーを拡大するのは難しく、容易な解決策はない」
- 原子力開発の実現性は、安全性を確保するため進化し続けるテクノロジーの状況にも左右される
- ASEAN電力網の構築や水素エネルギーの活用も選択肢に挙げたが、いずれも長期的かつコストのかかる取り組みになるとの見方を示した
ウェルスマネジメント
- シンガポールは引き続きウェルスマネジメント事業の拡大を目指す一方で、格差是正にも取り組む方針だ
- これはキャピタルゲイン課税や富裕税に限定されるものではなく、政府が社会的保護策を構築できる能力を持っている。住宅開発庁(HDB)を通じて国民が資産を形成し、世代間で移転できる仕組みがその一例だ
- シンガポールが金融センターである以上、不正資金の流入や「ハエ」と呼ばれる不正な資金が正当な富と共に入り込む可能性がある
- 「われわれはかなり大きなハエたたきを持っている」
- 「非常に厳格に対応しており、迅速な措置を取っている。シンガポールを支えているのは信頼できるビジネス・金融センターという評判であり、それを守る決意だ」
原題:US-China Rivalry to Persist Despite Trade Truce, Singapore Says(抜粋)
--取材協力:Nurin Sofia.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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