「米国の世紀」と呼ばれた20世紀の経済的優位を再び取り戻そうとするトランプ大統領の取り組みは、21世紀を自らの時代と位置づけるアジア地域から米国を切り離す恐れがある。

アジア地域で数十年かけて築かれた貿易関係は、1940年代以来最も高い米国の関税障壁に直面している。中国人留学生がビザの制約で米国留学を敬遠し、シンガポール人観光客がアジア域内の旅行先を好むなど、人と人との交流も細りつつある。

トランプ氏は日本と韓国から計9000億ドル(約140兆円)規模の対米投資の約束を引き出すなど成果を上げているものの、米移民当局による捜査が韓国人労働者300人余りの拘束につながったような事態が、信頼関係を揺るがしている。

トランプ大統領

世界経済の成長エンジンであり続けるインドや中国などアジア各国の政治指導者らは、トランプ氏の「米国第一」政策を回避する形で自国経済の再構築を進めている。

インドと中国は数十年に及ぶ国境紛争を脇に置き、協力深化を模索している。最近の日中間の摩擦のように道のりは平たんではないが、北東アジアの主要経済国も貿易関係の強化を打ち出している。経済的に中国との結び付きが一層強まる東南アジア諸国は、中立的な立場を維持しようとしている。

トランプ政権2期目発足からほぼ10カ月の現段階で、閉鎖された工場を再稼働させ、雇用を取り戻すなど米国に有利な世界経済の再編を目指すトランプ氏の取り組みを評価するには時期尚早だ。

台湾積体電路製造(TSMC)による新たな半導体工場への投資や、長年放置されてきた造船所への韓国・HD現代重工業による再生投資などが、米国内の戦略産業の再活性化につながる可能性はある。エコノミストが警告していた関税のショックが米国のインフレや成長、金融市場に顕著な悪影響を及ぼす兆しも今のところ見られない。

だがリスクは明白だ。ブルームバーグ・エコノミクス(BE)によれば、2050年までに世界経済の約60%を占めると見込まれるアジアに対し、米国の比率はわずか11%にとどまる見通しだ。米中貿易戦争は10月末に一部輸出規制の緩和で一時的な休戦に至ったものの、トランプ氏の関税措置とそれに対抗する報復措置により、中国にとっても貿易が半減する恐れがある。

不動産不況の影響で成長ペースは新型コロナウイルス禍前より鈍化しているものの、中国は引き続き世界の製造業の中心地だ。中国指導部は半導体や人工知能(AI)など戦略的技術分野での遅れを取り戻し、量子コンピューティングや核融合など将来産業を育成するための野心的な計画を打ち出した。

BEの推計では、中国のハイテク産業は現在、国内総生産(GDP)の15%強を占めており、17年の11%未満から大きく拡大した。中国はAI分野でも低コストモデルの普及を背景に米国との差を急速に縮めている。AIスタートアップ、DeepSeek(ディープシーク)の高性能モデル「R1」はシリコンバレーを驚かせた。

トランプ氏がインドによるロシア産石油輸入を巡り、同国のウクライナ侵攻を助長していると非難し、50%の懲罰的関税を課したことに、インドは衝撃を受けている。

トランプ氏の対インド姿勢は、同国と中国の歩み寄りを加速させる結果となっている。両国は20年の国境紛争を過去のものとし、商業面での結び付きの強化を図っている。

インド政府当局者の間では、製造業振興計画を進める上で中国からの投資が必要だとの認識が広がりつつある。一方、高齢化と産業の供給過剰という課題を抱える中国にとっても、インドとの関係改善は成長著しい市場へのアクセスにつながる。

BEの予測によると、インドは30年までに中国を抜いて世界経済の成長を主導する立場に立ち、その寄与度はその後の数十年にわたり拡大していく見通しだ。

トランプ氏が貿易障壁を強化する一方、アジア域内貿易は自由化の流れにある。

トランプ氏がマレーシア訪問を終えた翌日、中国の李強首相とマレーシアのアンワル首相はクアラルンプールで、中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)の自由貿易圏の拡大に向けた協定に署名した。

米国に向けては物品だけでなく人の流れも細っている。

米国際貿易局のデータによると、8月に渡米した留学生数は前年同月比19%減の31万3000人余りと、5カ月連続で減少した。新入生の渡米が集中する8月としては、新型コロナ禍の21年以来の低水準となる。国別ではインド人留学生が45%減、中国人留学生が12%減だった。

一方、トランプ氏が新たに導入した高度技能人材向け就労ビザ「H-1Bビザ」の新規申請に対する10万ドルの手数料は、全体の約3分の2を占めるインド人申請者に特に大きな打撃を与える見通しだ。

自由貿易か、国家安全保障か。比較優位か、米国第一か。利益拡大のための海外移転か、賃金引き上げのための国内回帰か。トランプ氏とその側近は、これまでの政権がこれらの二者択一で前者に偏り過ぎたと主張し、自分たちの使命は後者に重点を置くことでバランスを取り戻すことだと訴えている。

こうした主張には一定のデータ上の裏付けもある。輸出大国としての中国の台頭は、米国の製造業雇用の急速な減少や中間層の所得停滞と時期を同じくしている。さらに重要なのは、この主張が選挙で支持を得ており、トランプ氏のホワイトハウス返り咲きの追い風となったという点だ。

だが、この政策パッケージには明確な代償もある。米国は既にかつての友好国や同盟国の一部から競争相手あるいは強引な大国と見なされる存在に変わりつつある。今後、関税が貿易関係を断ち、人と人との交流が冷え込み、投資が実を結ばなければ、米国は「アジアの世紀」の単なる傍観者にとどまる可能性がある。

原題:The Asian Century Rolls on as Trump Risks Freezing America Out(抜粋)

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