トランプ米大統領がスイス製品に39%の関税を課して以来、スイスの時計メーカー、グロバナが米国向け輸出を再開するまでに3カ月を要した。

8月の発表を受け、グロバナの経営陣は関税負担の吸収可能額を算定し、利益への影響を見極め、主要販売代理店と価格の再交渉を行わなければならなかった。11月上旬、ようやく米国向け出荷が再開された。

そうした苦労の末、時計業界や他のスイス輸出企業にようやく安堵(あんど)がもたらされたのは11月14日だった。米政府が関税率を39%から15%に引き下げると発表したからだ。

関税引き下げはまさに待望の措置だった。9月にスイスから米国への時計輸出は前年比56%減少し、各社はコスト削減や従業員の一時帰休を余儀なくされた。大手ブランドは主要サプライヤーを守るため、小規模専門メーカーへの出資も進めている。

スイス時計産業の中心地の一つ、ラ・ショー・ド・フォンでは、工房の稼働時間短縮により、日常の活気がほぼ消えた日もあると地元住民は語っている。

グロバナのクリストファー・ビッターリ最高経営責任者(CEO)は「スイスの時計業界全体が大きな打撃を受けている。米国市場なしでは生きていけない」と述べた。

39%の関税は、中国の需要減退や金などの材料価格の高騰といった厳しい環境に追い打ちをかけた。金は先月、過去最高値を付けており、JPモルガン・プライベート・バンクによれば1オンス=5000ドルまで上昇する可能性があるという。

さらにスイス・フラン高も逆風だ。対ドルで今年約14%上昇しており、スイス製品を買う際のドルの購買力が以前より低下している。

14日に新たな通商協定が確認される前に、スイスの高級ブランド大手リシュモンは好調な売上高を公表した一方、より有利な条件で合意されなければ、関税の影響が年後半にさらに大きくなると警告していた。

国内産業支援に乗り出したスイス政府は、一時帰休者への補助金支給期間を延長した。制度は全産業を対象とするが、特に時計ムーブメント製造など専門技術を要する企業にとって重要だ。

時計産業の集積地ジュラ州の商工会議トップ、ピエールアラン・ベレ氏は 「まさに酸素のような支援だ」と述べ、これで企業は熟練労働者を維持できると指摘した。

時計づくりの伝統が息づくラ・ショー・ド・フォンやル・ロックルでは、減速の影響が目に見えている。以前は活気にあふれていた工房が数人で運営され、週の一部は工場が閉鎖される例もある。通勤者や交通量も減少しているという。

スイス有数のムーブメントメーカー、ラ・ジュー・ペレでさえ圧力を感じている。業績の落ち込みはまだら模様で、当面は人員配置を調整して対応しているが、状況が長引けば一時帰休も検討対象になるという。

スイス政府と米国の新たな通商協定は、ロレックスのジャンフレデリック・デュフールCEOら有力経営者がトランプ氏とホワイトハウスで面会してから約1週間後にまとまった。会談が交渉を前進させたとみられている。

1737年創業の老舗ブランド、ファーブル・ルーバのパトリック・ホフマン会長は、「関税引き下げは時計業界にとって非常に重要で、切実に必要とされていた救済策だ」と評価した上で、「それでも、トンネルの先に光が見えるとはまだ言えない」と指摘。「中国や香港などの輸出が2年前と比べていまだ30%以上減っている」と述べた。

原題:Swiss Tariff Deal Brings Relief to Struggling Watchmakers(抜粋)

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