(ブルームバーグ):米テキサス州ダラス近郊に住む非営利団体幹部のイアン・パターソンさんは、約7年間保持していた「グローバルエントリー」の資格をこの夏、取り消された。グローバルエントリーは、税関・国境警備局(CBP)による「低リスク渡航者」向けの入国審査の迅速化プログラムだ。パターソンさんは7月に旅行した後、1カ月ほどして、グローバルエントリーのステータスが変更されたとのメールを受け取った。CBPのポータルにログインすると、そこには斜線の入った丸のマークが表示されていたという。
「『情報が正しくありません』と表示されていた」とパターソンさん。「意味が分からなかった」と語った。
ブルームバーグ・ニュースが情報公開請求を通じて入手したCBPのデータによると、2024年初め以降、グローバルエントリーの資格取り消しが急増しており、その数は合計で数万人規模に上る。CBPは24年に1万7281件の登録を取り消しており、前年比47%の増加となった。この傾向は25年に入っても続いている。だが取り消し理由を知らされないケースが多く、「SHEIN(シーイン)で購入した物品が税関で引っかかった」、「政治的報復ではないか」などさまざまな臆測が飛び交っている。

グローバルエントリーの資格を失っても、米国への入国自体が禁止されるわけではない。資格取り消しの動きは、旅行者に対する検査強化の一環とみられる。CBPは、携帯電話の検査やビザ申請者に対するSNS調査の頻度も増やしている。
グローバルエントリーは、米政府が運営する「トラスティド・トラベラー・プログラム(TPP)」の一つで、「信頼できる渡航者」と認められた人に特典を与える制度だ。グローバルエントリーに付随する「TSAプレチェック」では、空港の保安検査場で専用レーンを利用できる。グローバルエントリーの資格を取り消されると、TSAプレチェックの資格も同時に失われる。
CBPの発表によると、グローバルエントリーの登録者は今年5月時点で「1300万人近く」と、過去最高を更新。20年比で83%増加した。だが一方で、資格取り消し件数の増加率は同期間に144%に上っている。

CBPは既存の登録者に対し定期的に審査を行い、資格要件を満たしているか確認している。これまでは登録取り消しはまれで、ブルームバーグがCBPのデータや発表資料を分析したところでは、過去には毎年約1000人に1人程度しか資格を失っていなかった。主な理由は刑事事件での訴追や保安検査場への銃持ち込み、またグローバルエントリーの場合は未申告の果物や野菜の持ち込みといった農産物に関する違反などだ(ただCBPのオンブズマン事務局は、一定の条件下で例外を認めることができる)。
CBPは本来、資格取り消しの理由を通知する義務がある。だが政府監査院(GAO)の23年の報告書によると、18年にCBPが通知手続きの書式を変更した際、理由の説明文をテンプレートから「不注意で削除」してしまったという。理由が記載された場合でも、その内容は曖昧なことが多い。
CBPにはコメントを求めて連絡を取ったが、これまで返答を得られていない。
アトランタ在住のコンサルタント、ローレンス・エリスさんは22年にグローバルエントリーの資格を取得したが、今年3月に取り消された。「なぜ取り消されたのか正確な理由は分からなかった」とエリスさん。「こんなにも唐突に、理由もなく起きるものだとは思いもしなかった。今でも理由は知らされていない」と述べた。
資格を取り消された人はCBPオンブズマンに異議申し立てを行うことができるが、認められるには取り消しが誤りだったということを証明しなければならない。だが理由が明示されない中で証明するのは容易ではない。それでもGAOの調査によると、20年から23年の間にグローバルエントリーの申請却下または資格取り消しに関する異議申し立てのうち、39%は覆されたという。
原題:Global Entry Revocations Have Surged Since 2024(抜粋)
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