(ブルームバーグ):米投資銀行のキャンターフィッツジェラルドでは、忙し過ぎて自宅に帰れない社員のために簡易ベッドが用意されるかもしれない。
同社にとって2025年はこれまでで最も多忙で、記録破りの好調な一年となりそうだ。関係者によれば、予想される収入は前年比で25%余り増加して25億ドル(約3800億円)を上回り、自社最高を記録する勢いだ。
創業者のハワード・ラトニック氏は商務長官としてトランプ政権入りし、今のキャンターは息子のブランドン、カイル両氏が経営する。
ワシントンとのつながりが成功の一因との見方に対しては、両氏を含むキャンター経営陣は反論する。同社は少数精鋭で成長し、大手の銀行が距離を置いてきた分野で長年積み上げた準備が、今のブームで恩恵を受けていると話す。
関係者の1人によれば、250人を擁するディール部門は10億ドルを超える収入を見込んでいる。バンカー1人当たりの額は400万ドルとなり、コーリション・グリニッチのデータによれば大手銀行の約2倍に相当する。
キャンターの広報担当者は同社の業績についてコメントを控えた。
今年米国で手がけた新規株式公開(IPO)の規模では、キャンターが業界最多。株式売り出し全体の規模では、バークレイズやシティグループなど古参勢を抜いて5位に浮上した。同社では主に米国外の顧客による取引が急増している。年内にUBSグループからヘッジファンド部門のオコナーを買収する見通しだったが、自動車部品メーカーのファースト・ブランズ・グループが破たんした影響で先行きは不透明になっている。
キャンターでは収入の多くが暗号資産(仮想通貨)関連のディール急増に由来するが、レアアース(希土類)や量子コンピューター、ロボティクス、データセンターといった現在ブームを享受しているセクターを早い段階からカバーしてきたことも奏功した。
暗号資産に対しては長年、懐疑論があり、それは今も根強く残っている。それを乗り越えた先行投資がようやく実りつつあると、受け止められている。
キャンターの債券部門を率いるクリスチャン・ウォール氏は「冬を乗り越えない限り春はやってこない」と語る。同部門はビットコインを担保に数十億ドル規模を融資するサービスを立ち上げ、5月に最初の案件を成立させた。トランプ政権によるイノベーション重視や規制の明確化、さらにそれに続く機関投資家の参入が「世界を一変させた」とウォール氏は述べた。

米政界からは独立しているとするキャンターの主張に、疑念の声も上がっている。ワイデン、ウォーレン両上院議員(いずれも民主党)は8月、同社に関する報道について詳細な情報を求めた。トランプ関税が違法と判断された場合にヘッジファンドが利益を得る取引について、キャンターが仲介を検討しているという報道だ。関係者らはキャンターではこうした取引を見送っていると述べた。
ワイデン上院議員はブルームバーグへの電子メールで「商務長官の息子が父親の会社を引き継ぐ場合、公平性が厳しく追及されるのは当然だ」と述べた。
政治とビジネスの境が曖昧になるのは過去にはまれだった。キャンターは批判にもかかわらず、政府関係者との公な接触を隠しもしない。マイアミで主催したイベントでは、トランプ氏の息子エリック・トランプ氏やクルーズ上院議員(共和党)を招待。クルーズ議員はラトニック氏の商務省を追求する委員会を率いている。ブランドン・ラトニック氏はその夜ワシントンに移動し、ホワイトハウスで開かれた夕食会に出席。そこにはウォール街の大物と並んでトランプ大統領の姿があった。
原題:Lutnick Sons Score Record Year as Cantor Denies Trump Conflicts(抜粋)
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