ニデックの不適切会計疑惑の影響が拡大している。問題の真相はいまだ不明だが、関係者への取材からは同社の利益必達を求める苛烈な企業文化の負の側面が浮かび上がる。

同問題を巡っては、ニデック本体やグループ会社の経営陣の関与・認識のもとで不適切な会計処理が行われたことを疑わせる資料も見つかった。創業者、永守重信氏(81)の指揮の下で高成長・高収益企業としての評価を築き上げてきた同社だが、一転して厳しい目が向けられている。

現役社員や元社員など複数の関係者は、利益達成に厳しいニデックでは、永守氏や幹部らからのプレッシャーが強いと説明。従業員側からすれば実現困難と思われる目標を掲げざるを得ない状況が生じることがあり、それが現場の負担となっていたと内情を明かす。

過去のニデック社内では決算短信などで開示されている業績目標を上回る社内目標が存在したと、関係者の1人は話す。別の関係者によると、進捗(しんちょく)について毎日報告が求められていた。

理由を付けて目標達成できそうだと報告を続けるものの、次第に実情と乖離(かいり)していき、結局、後で修正を迫られることもあったという。そうした状況に対して意見ができる雰囲気ではなかったという。

創業者の永守氏(2019年、東京都)

元社員らは、こうした環境下で従業員が目標値の引き上げを回避するために過小に報告したり、利益を大きく見せるために費用を次の期に先送りしたりする手法があったことを明らかにした。これらの事象が不適切会計に該当したり、結果的に不正につながったという証拠はない。

永守氏自身がげきを飛ばすこともあった。最高経営責任者(CEO)時代、2022年11月の土曜日に幹部に宛てた電子メールでは、外部環境の悪化を理由に事業計画未達となることを戒めていた。売り上げが足りず利益が出なかったという言い訳は「絶対にしないように」とくぎも刺していた。

永守氏は今年6月にイタリア子会社の関税未払いの可能性を受け、コンプライアンス(法令順守)を経営の最優先事項と捉え、「世界のニデックとして戦っていくためには正しいことを一番にやる」必要があると明言。社内でも周知徹底していると明らかにした。

だが、その後も相次いで不適切会計の疑いが浮上した。問題の調査で約3カ月遅れて提出した前期(25年3月期)の有価証券報告書で監査法人の意見が得られなかった。

東京証券取引所は先月、内部管理体制などについて改善の必要性が高いとしてニデックを特別注意銘柄に指定することを発表。日経平均株価の構成銘柄からも除外され、株価が急落した。

第三者委員会による調査が進められているほか、ニデック自身も再生委員会を設置し、内部管理体制の強化に向けた検討を開始している。会計上の不正が実際にあったかなどについては現時点では明らかになっておらず、不適切会計の詳細についても分かっていない。

一連の問題を受けてニデックの株価は年初来では20%近い下落率となっており、同期間に約20%高となった日経平均株価を大きく下回るパフォーマンスとなっている。イタリア子会社の関税支払いを巡る問題などを調査する影響で、業績速報値のみ開示していた今期(2026年3月期)の第1四半期決算短信を14日に開示すると前日に発表されたことを受けて、12日は一時前日比6.3%高の2330円と大幅な上昇となった。

 

三大精神

「情熱、熱意、執念」「すぐやる、必ずやる、できるまでやる」-。ニデックの「三大精神」に表れる成長やコスト削減への厳しい意識が同社の競争力の源泉となってきたことは確かだ。ただ近年はコンプライアンス(法令順守)が強く求められ、インフレ下で費用削減の難易度も上がっており、企業文化の大幅な転換を迫られている。

永守氏は学歴や社歴に関係なく、もうけてくれる社員が一番偉いと公言してきた。こうした分かりやすい評価軸が従業員の発奮材料になってきた面はある。だが、週末や深夜などにも会議が開かれ、上から詰められる文化があるとする関係者らの証言からは、こうした経営哲学への強いこだわりがもたらしたマイナス面も見えてくる。

「平成も終わり、令和の時代に昭和の経営イズムは全部ダメ」。企業会計・監査に詳しい青山学院大学の八田進二名誉教授はニデックの企業体質に厳しい見方を示す。「成功体験を持った昭和の感覚が染みついている人は、今の時代のリスク感覚を備えておらず経営者として不向きである」とも述べた。

慢性的な労働力不足に直面する日本において、こうした企業文化は従業員の離反を招くリスクもある。元従業員らによれば、細部まで管理する手法、長時間労働、深夜や週末の会議などのプレッシャーの大きい環境は、従業員の離職につながっていたという。

こうした中で、ニデックは4日に主要取引行との間での総額6000億円のコミットメントライン契約を締結したと発表。機動的かつ安定的な資金調達手段を確保し、財務基盤の強化を図ることを目的とする。販売・供給、生産、サービスなどの取引活動に支障はないとしている。

ニデックの広報担当者にコメントを求めたが、第三者委員会による調査事項となるため、記事への回答は控えるとした。

猛烈経営もうできぬ

永守氏自身の言動からは時代の変化に対応しようとする姿勢もうかがえる。永守氏は23年3月、新経営体制の発表会見の場で社員の働く環境が変わってきている中、「猛烈的な経営はもうできない」とし、後継者には「強い会社も非常に大事だが、働きやすくていい会社にしてもらう」と述べていた。

また、昨年発足した岸田光哉社長兼最高経営責任者(CEO)を中心とした新体制でも改善に向けて模索する動きがある。関係者の1人によると、8月以降は稟議(りんぎ)書の決済は取締役会に諮られる案件以外は基本的に永守氏に回らなくなったほか、岸田氏が深夜や週末の会議はやめるように伝えているという。

1日16時間働き、休みは元日の午前中だけといった逸話で知られる永守氏が率先して社員に示してきたハードワークや強いリーダーシップがニデックをけん引してきたことは事実だ。ブルームバーグ・インテリジェンスの若杉政寛アナリストは、投資家目線で見ると成長に対する貪欲さやマクロ環境を言い訳にしない姿勢は評価できるとした。

関係者の1人も、トップ外交で仕事を取ってくる姿は尊敬していたと話す。口だけのワンマン社長だったら会社はつぶれていたと振り返る。

青山学院大学の八田名誉教授は、不適切会計の可能性が浮上したことについて、背景にはM&A(統合・買収)を重ねて成長してきたニデックの持つ「独特の企業風土」があるとみる。売上高至上主義でしっかりとした内部統制による規律づけがグループ全体に浸透していない可能性があるとして、「今回の問題は起こるべくして起きた」と述べた。

(株価情報などを追加しました)

もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp

©2025 Bloomberg L.P.