トランプ政権は関税をやめるのか?
トランプ政権が代替的な措置を用いれば、実質的に関税政策を続けることが可能だ。
具体的には、最大15%の関税を150日間課せる通商法122条(経常赤字への対処)のほか、一次政権時の対中関税発動の根拠になった通商法301条(不公正な貿易慣行の是正)や最大50%の関税を課せる関税法338条(差別的待遇への対処)などを活用する可能性がある。
なお、IEEPAに基づく相互関税などが違憲となろうとも、通商法232条(安全保障上の懸念への対処)に基づく鉄鋼・アルミニウムや自動車など品目別関税の実施に影響はない。
また、トランプ大統領が景気減速への懸念から関税策を大幅に後退させる(関税率を実質的に引き下げる)シナリオも考えられる。
2026年11月に中間選挙を控えるなか、トランプ大統領は自身の支持者には「関税を司法に止められた」とアピールしつつ、関税による景気へのダメージを抑えることで無党派層への支持回復を狙うかもしれない。
日本を含めた各国との貿易合意はどうなるか?
トランプ関税の一部が違憲になろうとも、米国側に代替的な関税ツールがあることを踏まえると、多くの国が貿易合意を明示的に破棄する可能性は低い。
ただ、(トランプ政権が景気への配慮から代替的な関税発動を見送るなど)判決前後で関税率が大きく変わる場合、貿易合意の前提条件は大きく異なるため、貿易相手国が合意内容を忠実に履行するインセンティブは低下するだろう。
※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 主任エコノミスト 前田 和馬