アサヒグループホールディングスを襲ったサイバー攻撃から1カ月超たった。システムが復旧しない中、10月末時点で通常の1割の品目しか出荷できていない。年末商戦を控える中、飲食店からは不安の声も上がる。

「飲み放題ができなくなると、忘年会の客足にも響きそう」。新橋駅にほど近いビアホール、ビアライゼ’98の社長でマスターを務める松尾光平さんはこう話す。同店ではこれまで、「マルエフ」の通称で親しまれる「アサヒ生ビール」を主に扱っており、売り上げの8割を占めていた。

ビアライゼ’98では、供給不足を受けてスーパードライをマルエフのグラスで提供している

サイバー攻撃が起きた9月末から1週間程度は在庫でつないだが、今は休止中だ。他社や輸入ビールをかき集めて飲み放題メニューを提供する。苦労はしているが、アサヒビールとは75年以上の付き合いがあり、顧客にもアサヒを助けてあげようと呼びかける。

年末は飲食店にとってかき入れ時だ。総務省のサービス産業動向調査によると、12月が飲食店の売上高が最も大きくなる。またお歳暮や帰省に伴う集まりなどで、小売店など店頭販売の需要も高まる。品薄な状態が続けばアサヒGHDは重要な商機を失うことになる。

2024年12月期の同社売上収益に占める国内の割合は約46%で、勝木敦志社長が取り組む海外企業の合併・買収(M&A)やプレミアムブランド拡大の原資を生むのも、国内の安定収益だ。屋台骨である国内事業の混乱は、同社の成長戦略にも影を落とす。

バーンスタインのアナリスト、ユアン・マクリーシュ氏も警鐘を鳴らす。6日付のリポートで、アサヒグループの第4四半期(10-12月)のコア営業利益予想について150億円の赤字を予想した。同氏は10月末のリポートで、飲食店のビールサーバーやグラスが競合他社のものに置き換わり始めており、供給再開後の顧客再獲得が難しくなる可能性を指摘していた。

空きは一部

一方で、改善の兆しもある。上野市場本店(東京都台東区)では、システム障害が起きた後の1週間程度はサッポロビールやサントリー製品に切り替えていた。だが今はアサヒの主力商品「スーパードライ」が供給されているという。当初不安に思っていたよりは影響が出ていないと、同店の店長である飯田浩之さんは話す。

ノンアルコールビールやアサヒ生ビールは入ってきていないが、メニューなども大幅に変えなくてはならず、他社に切り替えるということは考えていないという。

東京都板橋区や港区のディスカウントスーパーの店頭でも、品薄や品切れの恐れを伝える張り紙はあったものの、酒類の多くは在庫がそろっており、商品棚に一部空きがあった程度だ。

11月半ばには10月の各社のビール販売動向が発表される見通し。アサヒは9月の発表はシステム障害を背景に見送っており、10月分を開示できるかに注目が集まる。

ビアライゼ’98の松尾さんは、中長期で他社への乗り換えは考えていない。「アサヒは大震災やコロナなども乗り越えている。やはり不死鳥のようによみがえってくると思っている」と話した。

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