人工知能(AI)分野の大規模事業者「ハイパースケーラー」によるデータセンター建設ラッシュについて、今後5年間に約1兆5000億ドル(約231兆円)の投資適格債発行やあらゆる市場からの大規模な調達が必要になる見通しだ。JPモルガン・チェースの分析が示した。

タレク・ハミド氏率いるJPモルガンのストラテジストチームは「問題は『どの市場がAIブームを支えるのか』ではなく、『あらゆる資本市場にアクセスするために資金調達をどう構築するか』だ」と指摘した。

同チームによると、レバレッジドファイナンス市場からは今後5年間で1500億ドル前後の資金供給が見込まれる。投資適格債やハイイールド債市場に加え、年間最大400億ドル規模のデータセンター証券化による調達を合わせても、需要を満たすにはなお不足するとしている。残りの約1兆4000億ドルの資金ギャップは、プライベートクレジットや政府資金によって補われる可能性があると、10日のリポートで推計した。

またリポートでは、AIデータセンター整備関連の総コストは少なくとも5兆ドル、最大で7兆ドルに達する可能性があり、これが社債やシンジケートローン市場の成長を単独で再加速させる要因になると指摘した。

同行アナリストは、来年発行される高格付け社債のうち約3000億ドルがAIデータセンター向け資金に充てられると予想。これはバークレイズが推計する総発行額1兆6000億ドルのうち、約5分の1に相当する規模だ。

アナリストによれば、データセンター需要は過去数カ月に急激に拡大しており、コンピューティング資源や不動産、エネルギーといった物理的制約によってのみ抑えられる見通しだという。市場関係者の一部が懸念する「AIバブル」の兆候をよそに、需要は過熱している。

先月にはメタ・プラットフォームズが投資適格級としては今年最大となる300億ドルの社債を発行。さらに先週はオラクルがデータセンターキャンパス建設のために180億ドルの資金調達に踏み切り、投資家の旺盛な需要を示した。

JPモルガンのアナリストは、今後5年間のAIデータセンター拡張に必要とされる巨額資金について、見通しが単純に「右肩上がり」になるとは限らないと警告する。最大の懸念は1990年代後半から2000年代初頭にかけての通信・光ファイバー網バブルの再来だという。当時は過剰投資によって供給過剰が生じ、多くの企業がデフォルト(債務不履行)に陥り、急上昇していた企業価値が崩壊した。

データセンターへの過剰な熱狂が非合理的な水準に達しつつある兆候が最近強まっているとアナリストは指摘。最新の調査では、データ産業の経営者の過半数が業界の将来的な混乱を懸念し、ウォール街の一部ではハイパースケーラーがバランスシート外でAI資金を調達するために利用している複雑なプライベート債務商品に対しても不安の声が上がっている。

アナリストは「投入資金の規模とAIエコシステムの勝者総取りの構造を踏まえれば、全てが順調に進んだとしても、極めて大きな勝者が現れる一方で、同程度の劇的な敗者も出るだろう」とコメントした。

同行のストラテジストによると、今後5年間の資金の最大の部分はハイパースケーラー自体から供給される見通しで、現在、年間7000億ドルの純営業利益のうち5000億ドルを設備投資に振り向けているという。

原題:AI’s $5 Trillion Cost Needs Every Debt Market, JPMorgan Says (1)(抜粋)

もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp

©2025 Bloomberg L.P.