外国為替市場の円相場が対ドルで今年2月以来の155円に向けじりじりと下落し、日本株市場では円安がもたらす副作用に警戒感が広がり始めている。

24年4月に155円を突破した際の為替トレーディングフロア

円安はグローバル企業の海外収益を押し上げるほか、外国人旅行客が日本を訪れやすくなり、インバウンド消費の増加を通じて国内景気や株価にプラスの影響を及ぼす傾向がある。一方、原材料や燃料など輸入コストの上昇を招き、消費や内需企業の収益にはマイナス要因となりがちだ。

円相場は10月30日に対ドルで約9カ月ぶりの安値となる154円台を付けた。今後155円を超えさらに円安が進む場合、為替が似た値動きを見せた昨年4月の経験則に照らし、日本株の上値抑制要因になると警戒されている。昨年のケースでは、155円を抜ける前の東証株価指数(TOPIX、円建て)は米S&P500種株価指数の成績を上回っていたものの、突破以降は下回るようになった。

TOPIXの相対的なパフォーマンス悪化の理由として市場で挙げられているのが政府・日本銀行による為替介入のリスクだ。日本の通貨当局は昨年4月末から7月中旬にかけ、4回にわたり円買い・ドル売り介入を実施。7月上旬に円は1986年以来の安値となる161円95銭を付けた後、9月には139円台まで急反発した経緯がある。

ピクテ・ジャパンの糸島孝俊ストラテジストは「円安が進み過ぎると、政府・日銀が対応を迫られる局面になってくる」と指摘。155円を超す円安は株式市場にとっても重しとなりかねず、「副作用が大きいことは積極財政派の高市早苗首相も認識しているのではないか」と述べた。

片山さつき財務相は10月31日の会見で、足元の為替相場は「かなり一方的、急激な動きが見られている」と過度の円安進行をけん制。加えて、緩和的な金融政策志向とみられていた高市首相が日銀の政策運営を巡り抑制的なトーンを続けており、背景に行き過ぎた円安への警戒感があるとの見立てもある。

大和アセットマネジメントの建部和礼チーフストラテジストは、154円ならぎりぎりポジティブだが、155円を超え160円に近づく局面では「実質賃金を引き下げるなど日本経済に対する副作用が目立ち、株式市場もポジティブに見ることができなくなってくるのではないか」と懸念を示す。

高市首相が自民党総裁選に勝利した10月4日以降、円は対ドルで4.3%安となっており、主要10通貨の中で下落率はトップだ。賃金の上昇が物価の上昇に追いつかず、実質賃金の低下が続く中でさらに円安が進めば、景気の先行き悲観論を台頭させかねない。

足元の主要企業の決算を見る限り、円安は日立製作所や村田製作所、JTなど日本を代表するグローバル企業の収益にプラスの影響を与えていることは確かだ。しかし、BofA証券の圷正嗣日本株チーフ・ストラテジストはこれ以上円安が進むと、日銀の利上げが前倒しになる可能性も意識され始めると指摘。株式市場にとって円安が与えるポジティブな度合いは薄れていくだろうと予測している。

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