日本企業のコーポレートガバナンス(企業統治)は、ここ10年間に大きな進展を遂げ、株式相場は上昇し、企業の合併・買収(M&A)への関心が高まった。

だが今、トヨタグループを巡る案件により、こうした取り組みが試されている。グループによる上場子会社の非公開化計画に対して、少数株主の間で不満が強まっている。

買収価格や情報開示の不十分さなど多岐にわたり懸念が広がる。総額4兆7000億円規模の取引の行方は国内外で注目されており、とりわけ自国のガバナンス改革に着手したばかりの韓国で注目を集めている。

20人余りの投資家が署名した書簡は、豊田自動織機の買収計画について「広範な懸念」があると指摘した。豊田織機は、世界最大の自動車メーカー、トヨタ自動車の源流企業だ。

トヨタ自動車は先週、買収提案額の引き上げは予定していないと示唆した。提示額が低過ぎるとの批判が広がる中での発言だったと、ブルームバーグ・ニュースは報じている。

今回の豊田織機買収は、最近活発化しているM&Aの動きを踏まえれば合理的な展開とも言える。一方で、日本最大の企業グループに対する創業家の支配力をさらに強化することにもつながる。

豊田織機はトヨタ自動車の豊田章男会長の曽祖父、豊田佐吉氏が1926年に創業。織機や自動車部品を製造する豊田織機は、トヨタ自動車株を約8%保有。これに対し、章男氏の持ち株比率は1%にも満たないとブルームバーグのデータは示しており、豊田織機の影響力もそれだけ大きい。

理論的には、この買収は日本のコーポレートガバナンス改革にとって大きな成果となるはずだ。この改革は2013年に当時の安倍晋三首相が始めた経済政策「アベノミクス」を契機に本格化し、その後、「スチュワードシップ・コード」と「コーポレートガバナンス・コード」が導入された。

これにより、機関投資家は、より積極的に企業に対し説明責任を促す役割を求めることができるようになり、企業は株主を平等に扱うことが義務付けられた。東京証券取引所と経済産業省もそれぞれ独自の指針を策定し、改革の推進を後押ししている。

今回の提案では、創業家の投資部門として機能する非上場のトヨタ不動産が、豊田織機株を1株1万6300円で公開買い付け(TOB)する計画だ。

これは6月のTOB発表当日の終値を約11%下回る水準となる。買収後には新たに非上場の持ち株会社が設立される。豊田織機株の11月4日終値は1万7000円だった。

トヨタグループの規模と影響力を考えれば、豊田織機の非公開化は、資本効率の悪化や利益相反の温床と批判されてきた親子上場構造を解消する上で重要な一歩となる。

改革の行方

香港拠点のアジア・コーポレートガバナンス協会(ACGA)で日本・インド調査責任者を務めるアヌジャ・アガルワル氏は、少数株主は取引の狙いそのものには異論を唱えていないが、問題視しているのはプロセスと実施の在り方だと筆者に語った。

ACGAは世界で100を超える会員を擁し、その多くは機関投資家で、この書簡を先月公表した。

投資家らは、十分な情報開示が実施されないことで自らの利益が軽視され、改革の精神に反していると主張。豊田織機とトヨタ自動車の取締役会に宛てた書簡で、評価プロセスが不透明で、少数株主の保護が弱まっていると訴えた。

独立系調査会社コドリントン・ジャパンの最高経営責任者(CEO)で、書簡に署名した一人でもあるスティーヴン・コドリントン氏は、自身の試算を基に豊田織機株の適正価格は1株2万円程度だと述べている。ただし、十分な情報開示が実施されない現状では正確な判断は難しいという。

投資家らはまた、デンソーとアイシン、豊田通商のトヨタグループ3社がTOBに向けて独立少数株主に指定されている点を特に危惧。この指定により、実質的に少数株主からの支持をそれほど必要とせず、過半数を得なくても豊田織機買収が成立する可能性がある。

豊田織機は電子メールで、6月の発表当時に適用されていたディスクロージャー(情報開示)規定に従ったと説明。懸念を持つ投資家と対話を行ったとし、今後も対話を続ける意向を示した。同社はさらに、3社はいずれも上場企業で、トヨタ自動車やグループ全体から独立しており、TOBに参画するかどうかはそれぞれの判断に基づくものだとコメントした。

法的義務はないものの、豊田織機の取締役会は、東証が今年7月に新たに示した指針に沿って、提示価格と取引構造の決定プロセスを投資家により丁寧に説明すべきだろう。

また、市場環境が大きく変化した場合、買い付け価格の見直しも検討する必要がある。豊田織機が少数株主の懸念にどう対応するかは、まだ続いているコーポレートガバナンス改革の行方にも大きな影響を及ぼす。

株式市場の再生を目指して始まったアベノミクスの改革で、日本企業は大きく前進した。ここで後退するような事態は避けたいところだ。

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(ジュリアナ・リウ氏はブルームバーグ・オピニオンのアジア担当コラムニストで、企業戦略と経営をテーマに執筆しています。以前はCNNでアジア担当シニアビジネス編集者を務めたほか、BBCニュースとロイター通信の記者としては働いていました。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Toyota Buyout Is a Major Test for Japan’s Reforms: Juliana Liu(抜粋)

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