
(ブルームバーグ):先月の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合では、投資家の間で2025年初の利下げは確実視されていた。ただ、注目が集まっていたのは連邦準備制度理事会(FRB)のウォラー理事がどう動くかだった。
外部の目には、ウォラー氏は難しい立場にあった。トランプ米大統領の側近が理事に就任したばかりで、大統領が求める大幅利下げに賛成票を投じるのはほぼ確実視されていた。次期FRB議長候補の最終リストに名を連ねるウォラー氏は、自身の昇格の可能性を後押しするため同調するようプレッシャーを感じていた可能性もある。

しかし、同氏はそうはしなかった。トランプ氏が指名したマイラン理事が0.5ポイントの利下げを主張し、0.25ポイントの引き下げ案に反対したのに対し、ウォラー氏は多数派に加わり0.25ポイントの利下げを支持した。
ウォラー氏はここ数カ月、利下げ再開の必要性を訴えてきたが、政策当局者の一部は懐疑的だった。同氏は0.25ポイント利下げで十分との考えを示しており、先週ニューヨークのイベントでは「市場と国民に対して明確で一貫した政策決定を行うためには、われわれはそれぞれの立場である程度妥協する必要がある」と語っていた。
ウォラー氏の姿勢
今回の決断は、ウォラー氏の政策姿勢と、投資家の間で築かれたイメージを象徴している。元経済学教授の同氏は、中央銀行の独立性を強く擁護してきたことで知られ、データを柔軟に分析して時に主流と異なる先見的判断を下すタイプだ。個人的な野望や政治的思惑のためにその評判を犠牲にすることはない、と関係者は口をそろえる。
リスクの高い今の局面でウォラー氏には特に注目が集まる。トランプ氏は次期議長候補を検討するだけでなく、金利決定から政治を排除することを目指すFRBに対し、より強い影響力を行使しようとしている。アナリストによれば、独立性が損なわれれば米経済や世界市場に深刻な悪影響を及ぼす可能性がある。
トランプ氏とその側近らは低金利を求めると同時に、FRBの在り方そのものを見直し、大規模改革を迫る意向も示している。ウォラー氏はパウエルFRB議長の任期が来年5月に満了するのを前に最有力後任候補とされており、その姿勢はあらゆる方面から注視されている。
関係者によれば、ウォラー氏はとりわけ金融政策においてFRBの独立性を損なう動きに反対し、組織を擁護するとみられている。ただし、現状を固守する人物とも見なされていない。理事就任後は気候変動問題におけるFRBの役割に疑問を呈し、システム全体のコスト削減を推進してきた。周囲は、議長となればその姿勢をさらに強める可能性があると話す。
議長職へのアピール
現在のウォラー氏の政策見通しは利下げを支持し、強く主張していることから「議長職へのアピール」との見方もある。ただし本人は関税の効果に関する長年の理論と、労働市場のリスクの高まりに対する最近の分析に基づいた見解だと説明する。
同氏は年初から、トランプ政権の輸入関税は物価水準を一時的に押し上げるが、持続的なインフレ圧力にはならないと主張してきた。この「教科書的」な見方により、FRBは関税の影響を金利政策に反映させる必要はないとの立場を取っており、この点で他の一部当局者と一線を画している。
労働市場の弱まりをいち早く察知したのもウォラー氏だった。6月には脆弱(ぜいじゃく)化の兆候を指摘し、当局者として利下げ再開を最初に求めた。翌7月の会合では据え置きを支持する多数派に反対票を投じた。
その数日後に発表された米雇用統計では、急速な雇用減速と失業率の上昇が示され、その判断は裏付けられた。
JPモルガン・チェースの米国チーフエコノミスト、マイケル・フェローリ氏は「ウォラー氏の頭の中までは分からないが、経済的な論理展開は妥当だ」と述べ、「私のように一度はウォラー氏の主張に反対しても、少なくとも主張の一貫性は認めざるを得ない」と語った。
BofAセキュリティーズの米シニアエコノミスト、アディティア・バーベ氏は、ウォラー氏を「高く評価されるエコノミスト」と評し、明確な根拠がない限り、中立金利を大きく下回る利下げを促すことはないとみる。「その水準を大幅に下回る積極的な利下げに必ずしも賛同するとは限らない」と述べた。
原題:Fed Contender Waller Backs Rate Cuts Without Bowing to Trump
(抜粋)
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