Photographer: Aaron Schwartz/Bloomberg

米連邦公開市場委員会(FOMC)が来週の会合で利下げに踏み切れば、それは、金融政策が現在「景気抑制的」で、経済の足かせとなっているという重要な前提に一部基づいた判断となるだろう。

だが、この前提は危ういものとなる可能性がある。

パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長は「中立的な金融政策」を目指すべきだとの立場を示している。最近の雇用の伸び鈍化に表れている労働市場のリセッションのようなリスクが、輸入関税の引き上げによるインフレリスクを相殺しているというのがその根拠だ。

このため、筆者はFOMCが来週の政策決定会合でフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0.25ポイント引き下げると予想している。パウエル氏を含む当局者は、現在の金利が4.0%超と、景気を刺激も抑制もしない中立水準を上回っていると考えているためだ。

だが、本当にそうだろうか。米経済が依然として底堅さを維持している現状は、その考え方と矛盾している。アトランタ連銀の予測モデル「GDPナウ」は、7-9月(第3四半期)の実質国内総生産(GDP)成長率を3.8%と予測しており、9月初めの3.0%から上方修正された。FOMCが9月に公表した経済見通しでも、2025年、26年、27年の中央値成長予測はいずれも引き上げられている。

パウエル議長が繰り返し述べてきたように、「r*(Rスター)」と呼ばれる中立水準は「その効果によって測られる」。そして、その効果が示唆しているのは、FOMCが示すRスターの予想中央値である3.0%が低過ぎる可能性だ。

もちろん、金融政策が経済成長を直接左右するわけではない。政策は広範な金融環境に影響を与えることによって機能する。過去1年でその金融環境は大きく緩和された。株価は上昇し、債券利回りは低下、ドルは下落している。ゴールドマン・サックスの指数によれば、金融環境は2022年4月以来で最も緩和的な状態にある。FRBが開発した別の指数は、8月時点での金融環境が翌年の実質GDP成長率をほぼ1ポイント押し上げる効果があることを示している。

筆者の見解では、金融環境はFRBの目標と整合的な水準、さらには追加利下げの期待だけで正当化される水準を超えて、行き過ぎた緩和状態にある。例えば、人工知能(AI)投資ブームにより、「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる大型ハイテク株が急騰し、時価総額に占める割合は2022年末の約5分の1から、現在では約3分の1にまで拡大している。

ドル下落も、期待される金利差の変化ではなく、関税合戦や一部の国によるドル資産保有の見直しによってもたらされている。

こうした動きは、すでに顕在化しているインフレリスクをさらに高める。パウエル議長は、関税引き上げの価格への影響は一時的なものであり、継続的な上昇ではないため無視できると示唆している。だが、これはあくまで長期的なインフレ期待がしっかりと抑制されている場合に限られる。その安定は、FRBが2%の目標達成に対して確固たる姿勢を保つという信頼にかかっている。

現実には、インフレ率は5年連続でFRBの目標を上回る公算が大きく(FOMC自身も2%到達は2028年まで見込んでいない)、インフレ期待が上昇する可能性は否定できない。実際、ニューヨーク連銀およびミシガン大学の消費者調査では、長期的なインフレ期待はすでに上昇している。

FRBは金融市場が織り込むほど迅速かつ大幅な利下げには踏み切らない可能性が高いとのメッセージを発信すべきだ。それが、インフレと雇用という二大責務を達成する上で、はるかに有利な立場をもたらすだろう。

(ウィリアム・ダドリー氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:The Fed Might Be More Dovish Than Powell Thinks: Bill Dudley(抜粋)

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