2カ月にわたる市場の楽観ムードを経て、ウォール街はまどろみから目を覚ましつつある。

まずファースト・ブランズ・グループとトライカラー・ホールディングスの破綻が、長らく忘れられていた信用損失への不安を呼び起こした。続いて、ザイオンズ・バンコープとウェスタン・アライアンスでの不正疑惑に絡む減損処理を受けて、融資問題の悪化が広範に及ぶとの懸念が強まった。16日には米主要銀行の時価総額が計1000億ドル(約15兆円)余り失われた。

これまで投資家は、政府閉鎖や過熱した株価バリュエーションなどを意に介さず、人工知能(AI)ブームや堅調な消費データを支えにリスクを取り続けてきた。その結果、ポジションは非常に積極的な水準に達している。ソシエテ・ジェネラルによると、株式やクレジットといったリスク資産への配分は8月末時点で追跡ポートフォリオの67%に達し、過去最高水準に接近した。

S&P500種株価指数は17日に上昇。トランプ米大統領の発言で貿易摩擦を巡る懸念が和らいだ。強気相場は継続しているが、6営業日にわたり資産クラス全体でボラティリティーが上昇しており、これは信用面の脆弱(ぜいじゃく)性というより深い不安を浮き彫りにしている。EPFRグローバルによると、15日までの1週間でハイイールド債ファンドから30億ドル超が流出した。かつて無敵とみられた暗号資産(仮想通貨)などリスク志向のモメンタム取引も勢いを失いつつある。

クオンツ系ポートフォリオでは、信用リスクを遮断する戦略が再び人気を集めている。エバコアISIによると、高レバレッジ企業を売り、借り入れの低い企業を買うペアトレードが再び高成績を上げている。これは、ドットコム・バブルのピーク前に見られた動きと似ているという。

こうした動きが直ちに長期的な弱気相場への転換を意味するわけではない。だが市場のトーンは確実に変わりつつある。信用基準の緩みや高レバレッジ企業離れ、ファンダメンタルズから乖離(かいり)した投機資金の流れが過去に見られた転換点を思い起こさせ、大手機関投資家の間では慎重姿勢が強まっている。

リーガル・アンド・ジェネラル(運用資産1兆5000億ドル)のマルチアセット運用責任者ジョン・ロウ氏は、自身のチームがリスクを低減させる対応を取ったとし、投資家のポジションとファンダメンタルズとの乖離が拡大しているためだとその理由を説明した。

ロウ氏は「ここ数週間、投資家心理は過熱とまではいかないまでも非常に高い水準にあり、その裏で過小評価されるリスクがあるとわれわれは見ていた」とし、「その認識が、15日にリスクを抑えて株式をショートにする決定の重要な一因となった」と述べた。

同社は既にクレジットを「アンダーウエート」としており、その理由としてタイトなスプレッドと上値余地が限られていることを挙げた。トライカラーとファースト・ブランズの破綻は特異な事例だと広く考えられているが、ロウ氏のチームは、特に低所得層の借り手を中心に、より広範なストレスの警戒信号になり得るとみている。

 

同様の見方を持つ市場関係者は他にもいる。

ベレンバーグのマルチアセット戦略・調査責任者、ウルリッヒ・ウルバーン氏は「われわれは典型的な信用サイクルの下向き局面に入りつつあると考えられる」と指摘。「壊滅的な状況ではないが、市場環境全体の転換点となるリスクは高まっている」と述べた。

ウルバーン氏は過去2週間に株式のヘッジを強化したほか、株式エクスポージャーを約10ポイント縮小させて「アンダーウエート」に転じたという。またS&P500種のコールオプションを売却してヘッジ資金を確保し、過熱感が強まっていた金と銀のポジションも縮小した。

「年初来の好調な成績を守りたいという動機が非常に強い」とウルバーン氏は述べた。

原題:Rattled Wall Street on Alert After Trillion-Dollar Risk Runup(抜粋)

--取材協力:Sidhartha Shukla.

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