IMFは「AI投資ブーム」を警戒
IMFは10月14日、世界経済見通し(World Economic Outlook:WEO、25年10月)を公表した。25年の世界経済成長率予測は前年比+3.2%と、7月時点の同+3.0%から上方修正され、26年は同+3.1%と修正なしだった。
WEOのサブタイトルは「変動期の世界経済、見通し依然暗く」(“Global Economy in Flux, Prospects Remain Dim”)(IMF日本語サイト。以下同)で、「短期的予測はやや上方改定されたが、新たに導入された政策が徐々に明確になるなかで、世界の経済成長は低迷し続けている」とされた。
IMFのチーフエコノミストであるピエール・オリヴィエ・グランシャ氏は、IMFのブログで「関税の引き上げとその影響は今のところ予想を下回っている」とした一方で、「関税の急上昇がきっかけとなったショックは、世界の経済成長に一切影響を与えなかった、と結論付けてもよいのだろうか。それは早計であり、不適切でもある」と楽観視しなかった。
グランシャ氏は関税の影響がこれから出てくる可能性に加え、「金融環境は依然として緩和的で、今年上半期にはドル安が進み、AI主導の投資ブームも起きている。こうした需要側の力は、経済活動を支える傍らで、負の供給ショックによる価格圧力をさらに増大させている」とした。
グランシャ氏は「懸念すべき以下4つの下振れリスク」として、①「AIの躍進が意味するのは希望か、それとも危機か」、②「中国の構造的な苦境」、③「高まる財政圧力」、④「危険に晒されている機関の信頼性」を挙げた。
真っ先にAIの躍進が挙げられたことが興味深い。グランシャ氏は「AI主導の投資ブーム」と述べているように、投資ブームの終焉を懸念していることは明らかである。
具体的には、「現在急増している人工知能への投資は、1990年代のドットコムブームと類似している。楽観的な見方がテック投資を加熱させ、株価を押し上げ、キャピタルゲインで消費を後押しする。こうした状況は自然利子率を引き上げる可能性がある。
過熱が続けば、ちょうど1990年代後半のように金融政策の引き締めを必要とするかもしれない」と、「過熱」という言葉を用いて説明された。
さらに、「AIが利益に対する過度の期待に応えられなかったりすれば、市場は急激な価格調整を行うかもしれない。そうすれば富を減少させ、消費を抑制させることになり、悪影響が金融システムを通じて拡散していく恐れがある」という警戒感も示された。
また、グランシャ氏が「金融環境は依然として緩和的」と述べたことも重要である。FRBは現在の金利水準が引き締め的であると評価しているが、グランシャ氏はそう考えていないようである。そして、FRBは利下げを開始し、QTの停止も近い。「AI主導の投資ブーム」とそれによる実体経済の「過熱」はどこに向かうのだろうか。