週明けの東京市場では、自民党総裁選で高市早苗前経済安全保障担当相が予想外に勝利したことを受け、景気刺激策への期待から株式相場の上昇が見込まれる半面、金融や財政の緩和的な政策姿勢を背景に円相場と超長期国債には下落圧力がかかるとの見方が広がっている。

高市自民新総裁

高市新総裁は安倍晋三元首相の「アベノミクス」路線を継承し、景気刺激を重視する一人。金融・財政両面で緩和的な政策を掲げる高市氏の姿勢は、株式には支援材料となる。一方、金融政策は政策金利を現行水準の0.5%を維持すべきだとするなど追加利上げには慎重で、日本銀行による10月利上げ観測が後退する公算が大きい。

ペッパーストーン・グループのシニアリサーチストラテジスト、マイケル・ブラウン氏は「今回の結果は市場が織り込んでいたものとは大きく異なり、まさにサプライズだった」と言う。高市氏の勝利は、日銀の利上げ観測が後退するとの見方と財政拡張的な政策スタンスを背景に円安につながる可能性があると予想し、双方が重なれば日経平均株価にとって支援材料になると述べた。

総裁選前の市場では、報道各社や海外予測市場の情報を材料に小泉進次郎農林水産相の勝利が有力視され、財政規律を重視し、日銀の政策正常化を後押しするとみられていた。もっとも、石破茂首相が先月退任の意向を表明した直後には、高市新総裁を期待する「高市トレード」が進行。株式では金利上昇が追い風の銀行株から借入依存度の高い不動産株へ資金がシフトし、債券では利上げペースの鈍化を織り込む場面もあった。

 

コムジェスト・アセットマネジメントのポートフォリオマネジャー、リチャード・ケイ氏は「銀行株は再び軟調となる可能性があるが、内需株や小型株は短期的に大きな追い風を受けるだろう」と予測。アベノミクスへの回帰を示す兆しがあれば、市場参加者や海外投資家はそれを歓迎するとみている。

安倍元首相の側近でもあった高市新総裁の就任で、日本経済が再びアベノミクス路線に回帰するとの見方が浮上している。高市氏は、防衛費など必要な投資には赤字国債の発行も選択肢としており、野党が求める消費税減税も排除しない姿勢だ。

国債市場では、高市氏の勝利前から財政出動への警戒感が強まっていた。10年債利回りは2008年以来の高水準で推移。日銀の利上げ観測の高まりも重なり、全ての年限で金利が上昇する中、日米金利差の縮小を意識して円は対ドルで上昇する一方、世界的なハイテク株高を受け日経平均は史上最高値を更新した。

 

野村証券の岩下真理エグゼクティブ金利ストラテジストは、市場参加者の多くが小泉氏の勝利を前提にしていたため、「金融市場は波瀾万丈の世界に放り込まれてしまった」と話す。円安と株高に加え、国債利回り曲線が傾斜(スティープ)化する「高市トレード」が復活すると予想し、「10月の利上げ観測が後退すれば、日銀があえて利上げに踏み切ることはないだろう」とも述べた。

オーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)市場では、3日時点で10月利上げの確率が約60%織り込まれていた。

三井住友トラスト・アセットマネジメントの稲留克俊シニアストラテジストは、組閣で財務相人事が焦点になると指摘。高市氏に近い旧安倍派出身で財政規律を重視しない議員が就けば、超長期金利は一段と上昇する可能性があるとした。財政規律への不安が浮上すれば、財務省の国債需給対策も揺らぎかねないと言う。

目先150円方向  

三井住友銀行の鈴木浩史チーフ為替ストラテジストは、政治の不安定性が残るため「円安が進みやすい」と述べ、円は対ドル150円程度まで一時的に売られる可能性を指摘した。SBI FXトレードの上田真理人取締役も「高市トレード」が先行して一時的に150円まで円安が進む可能性に言及。ただし、誰が首相になっても財政的には拡大方向ということを市場はある程度織り込んでいたため、「円売りの勢いは週内に落ち着く」と見方を示す。

高市氏は、野党が候補者を一本化する見込みは立っていないため、今月中旬に予定される国会での首相指名選挙を経て初の女性首相に就任する見通し。10月下旬に来日予定との観測がある米国のトランプ大統領との関係構築が課題となる上、財務相人事や補正予算の規模など、政策の具体化が市場全体の方向性を左右する見通しだ。

--取材協力:ジョン・チェン、堤健太郎、我妻綾.

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