「所有権」の制限、「共有」について解説する
「持ち家を購入するか、それとも賃貸住宅で暮らすか」。
この「住まいの選択」に関する問いは、「どちらが得か」といった経済合理性の観点から語られることが多い。
実際には損得勘定だけでなく、各人のライフスタイルや価値観を踏まえた判断が求められるが、そのうえで、住宅に関する法制度を正しく理解することも欠かせない。
そこで、住宅リテラシーの向上に向けて、知っておきたい住宅に関する基本的な権利や制度について解説する。
本稿では、「所有権」に対する制限のうち、「共有」について解説したい。
「共有」は、原則として「共有者全員の同意」が必要
不動産の「共有」とは、土地や建物を複数の人で所有する形態を指す。共有者には、10分の1や100分の1といった持分が割り当てられ、共有者の持分を合計すると必ず1になる。
一戸建て住宅を共有する例としては、夫婦や親子がペアローンを組み、持分を2分の1ずつに設定するケースや、実家を相続して兄弟姉妹で持分を等分するケースが挙げられる。
共有者は持分に応じて「使用」「収益」「処分」の権利を有するが、単独所有と比べると、その行使には一定の制限が伴う。「共有」は、民法では「使用」・「変更」・「分割請求」について以下のとおり規定されている。
(1) 使用(民法249条)
各共有者は不動産全体について持分に応じて「使用」することができる。
ただし、他の共有者を不当に害してはならない。例えば、兄弟2人が相続した一戸建て住宅で、兄が一時的に庭を駐車場として使用することは認められる。
しかし、共有者間で協議が整う前に兄家族が住宅に居住を始めることは、弟の利益を不当に害する行為にあたる。
(2) 変更(民法251条)
共有物に「変更」を加える場合には、共有者全員の同意が必要である。
ここでいう「変更」には、不動産を売却する、他人に賃貸して賃料収入を得るといった、「処分」や「収益」も含まれる。例えば、2人で共有している不動産について、1人が「売りたい」と主張しても、もう1人が同意しなければ売却はできない。
なお、保存行為については1人で、管理行為については共有者の持分価格の過半数の同意があれば可能である。
(3) 分割請求(民法256条)
「共有」は永続的に維持されるものではなく、各共有者はいつでも「分割」を請求できる。
方法としては、土地や建物を物理的に分割して持分に応じて割り当てる「現物分割」、一部の共有者が不動産を取得し他の共有者に金銭で精算する「代償分割」、不動産を売却しその代金を共有者間で分ける「換価分割」がある。
一戸建て住宅の場合、玄関、風呂、キッチン、トイレなどの設備は一つで、1世帯しか住めないことも多いため、持分に応じて「使用」「収益」「処分」することは難しい。
もともと同居していた家族間で相続が生じ、これまで通り住み続ける場合や、維持・保全のために必要な場合を除き、原則として「何をするにも共有者全員の同意が必要」である。
「共有」は、共有者間の関係が良好で意見が一致している場合は特段問題ない。しかし、意見がひとたび対立すると、非常に厄介な所有形態だと言える。
相続や売買を契機に共有者の数が増えたり、第三者が加わったりすると、利害の対立から意見調整が難しくなる。
広大な土地であれば「現物分割」によって解決できるが、一戸建て住宅のように物理的に分割できない不動産では、意見が対立すると不動産の活用が停滞する。
売却を試みても、共有者全員の合意がなければ実現せず、いずれ資産価値が低下し「負動産」となることもありえる。
このように、「共有」は公平に財産を分け合う仕組みである一方、共有者間の意見対立が生じれば、不動産の「使用」「収益」「処分」が著しく制限される。
共有する不動産を巡って将来の争いが想定される場合は、早期に協議を行い、単独所有とするか、共有者全員の合意で売却するなどの対策を講じることが望ましい。
共有者同士は意思疎通を図れる関係性を維持することが大切
不動産の「共有」とは、土地や建物を複数の人で分け合って所有する形態を指す。一戸建て住宅でも、夫婦がペアローンを組み持分を2分の1つに設定するなど、実際の活用事例も多い。
しかし、売却や賃貸といった不動産の「変更」には共有者全員の同意が必要であり、単独所有と比べて「所有権」の行使には一定の制限が伴う。共有者の数が増えると共有者間の意見調整が難しくなり、不動産の活用が停滞する恐れがある。
共有者同士は、必要な時に意思疎通を図れる関係性を維持し、円滑に協議できる体制を整えておく必要がある。また、将来の争いが想定される場合は、早期に協議を行い、分割請求や売却などの対策を講じることが望ましい。
※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子
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