(ブルームバーグ):米サブプライム(信用力の低い個人向け)自動車ローン会社、トライカラー・ホールディングスの本社オフィス。従業員は一斉解雇され、人気のないフロアにはナンバープレートや書類の山だけが残されていた。ローンのサービシング(債権回収)機能は崩壊していた。
これは9月16日の光景だ。トライカラーの命運を決定付けた衝撃的な詐欺疑惑が浮上してからわずか1週間後のことだ。サービサー(債権回収業者)であるヴァーヴェントの危機管理担当マネジャーらが急きょダラス入りし、調査を開始した。同社のコンプライアンス責任者デレク・ギャンブル氏は後に破産裁判所で「まるで竜巻が通り抜けたようだった」と証言した。だが関係者によれば、まもなく調査員を名乗る団体が姿を現し、ヴァーヴェントのチームは退去を命じられ、債権回収作業はほとんど手つかずのままとなった。

トライカラーは20%を超える高金利のサブプライムローン会社であり、その破たんはあまりに突然で、混乱を巻き起こした。破産申請から2週間たった現在も、財務状況や担保資産の実態はほとんど明らかになっていない。債券受託者のウィルミントン・トラストは先週、受託を突如辞退し、状況は混迷を深めた。債権者への利払い金がカストディアン(資金管理)銀行から支払われたものの、直後に異例の取り消しとなった。格付け会社S&Pグローバル・レーティングはこれを受けて、トライカラーの資産担保証券(ABS)に付与していた格付けを撤回した。
不法移民が大半を占める同社顧客も困惑している。実体がなくなった会社にローン返済を続けるか、自動車を失うリスクを覚悟で支払いをやめるべきかで悩んでいる。
これ以上の悪夢はない
ヴァーヴェントのチームは顧客に接触を試みているが、本社ビルへのアクセスが許されない状況では限界があると関係者は述べた。リームズ・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ニール・アガルワル氏は「回収業者からの情報は乏しく、受託者は離脱し、利払いは取り消されている。債権者にとって、これ以上の悪夢はない」と語った。
トライカラー創業者ダニエル・チュウ氏の弁護団にコメントを求めたが、現時点で返答はない。ヴァーヴェントのデービッド・ジョンソン最高経営責任者(CEO)は「消費者に公正で透明なプロセスが提供されるべきであり、当社はそのために尽力する決意だ」と述べたが、それ以上のコメントは控えた。
回収業者に退去を命じた捜査員の素性も、当初は確かではなかった。この件で調査を開始した米司法省と連携している連邦捜査局(FBI)の捜査官だという臆測もあった。現在分かっているのは、破産管財人のアン・バーンズ氏が率いる法務チームが、トライカラーの財務を精査し資産を集計しているということだ。ヴァーヴェントのチームは来週初めにもオフィス入室を許可される可能性があると、通知を受けた。バーンズ氏にコメントを求めたが、返答はない。
トライカラーは2007年に創業。米南西部を中心に低所得のヒスパニック系住民を対象にローンを提供してきた。2024年には年間の貸出額が約10億ドル(約1500億円)に達するほど、急成長していた。問題が表面化したのは今年の8月下旬。JPモルガン・チェースが担保の価値に対する懸念を理由に、ウェアハウスファシリティーと呼ばれる与信枠のサービサー役を降りた。フィフス・サード・バンコープはトライカラー関連会社から得た財務データに「重大かつ潜在的に詐欺的な虚偽記載」があったと、後の裁判所提出文書で主張している。トライカラーは9月10日、連邦破産法第7条に基づく会社清算を申請した。銀行側はなおも担保の真正性を検証している。

状況に詳しい複数の関係者によれば、車両識別番号(VIN)を巡る疑惑が捜査の中心になっている。番号がねつ造、あるいは重複使用され、トライカラーの不良債権隠しと資産価値水増しに利用されていた疑いも持たれている。オレンジ・インベストメント・アドバイザーズのポートフォリオマネジャー、ボリス・ペレセチェンスキー氏は「混乱だらけだ」と語る。債券保有者が甚大な損失を抱えることは避けられないかもしれないと述べた。
JPモルガン・チェースとフィフス・サード・バンコープの担当者はいずれもコメントを控えた。
格付け会社は直ちにトライカラー債券の格下げに動いた。クロール・ボンド・レーティング・エージェンシー(KBRA)は、一部証券の格付けを最大19段階下げて、「CC」に指定した。S&P は全ての格付けを停止。ムーディーズは23日、トライカラーの「デフォルト事由」を認定した。6月にトライカラーが発行したABS価格も急落している。
借り手からの資金回収役を担うヴァーヴェントは、自動車修理の完了処理や、返済済みの顧客への差し押さえ車両返却対応といった業務にほとんど手を付けられない状況だ。

3月にダッジ「ジャーニー」の2018年モデルを購入したアブリシャ・ジョーンズさん。ラジエーターの故障に続いて、温度計も壊れたため、8月末にフォートワースのトライカラー整備センターに預けた。しかし1週間後に受け取りに行くと、同センターは閉鎖されていた。
「まったく連絡が取れない。電話もメールも通じない」とジョーンズさんは語る。「何が起きているのか調べるため、グーグルで検索するしかなかった」という。
原題:Tricolor’s New Loan-Service Team Is Locked Out of the Building(抜粋)
--取材協力:Ava Benny-Morrison、Carmen Arroyo.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
©2025 Bloomberg L.P.