ビールの祭典、オクトーバーフェストの季節がやってきた。

ドイツのメルツェンやデュンケルといった濃色ビールを飲みたくなるのにはまだ少し早い。ただ幸いなことに、全米のクラフトビール醸造所から「ピルスナー」が続々と登場している。軽いが複雑で、夏のホップと秋の麦芽のバランスが絶妙な伝統的ラガービールだ。

ここ10年ぐらい、クラフトビール業界では、「来年こそはラガーの年」だと冗談交じりに語られてきた。ホップを大量に使ったIPAや濃厚なスタウト、甘酸っぱいサワーエールといった濃厚な味が20年超はやり、刺激に疲れた結果、軽快かつシンプルで長く飲み続けられるスタイルに回帰するという考え方だ。

消費者の嗜好(しこう)が一変したわけではないが、面白い現象は見られる。ラガーは少しずつ盛り返しており、全米各地の店のメニューで目にすることが増えてきた。

IPAが依然として圧倒的なクラフトビールの王者であることに間違いないが、最近はブルワリーやビアバーに行けば、複数のラガーを選べるのが当たり前になっている。

きっかけとなったのは、数年前のアメリカン・ライトラガーの復活だ。従来の大手ブランドの淡色ラガーに、クラフトビールの造り手が洗練さや豊かな風味を加えた。

そうした淡い色のビールの仲間が今、増えつつある。

ピルスナー

ラガービールは、底の方に沈降していく「下面発酵酵母」を使い、低温で醸造される。通常、上面発酵で造られるエールよりも軽くてキレのある飲み口となる。

ピルスナーは、その中でもとりわけ軽快で、透明感のある黄金色と、しっかりした白い泡が特徴だ。アメリカン・ペールラガーのようにすっきりしてドライな味わいだ。

「ピルスナーは淡色ラガーの元祖だ。ただ、その風味を一段と引き上げる」。カリフォルニア州パソロブレスのファイアストーンウォーカーのイノベーション・ブリュワリー・マネジャー、サム・ティアニー氏が語る。

ピルスナーは、特にホップの特徴が際立っており、苦みが淡色ラガー特有の麦芽の甘みと調和している。

この革新的なバランスは1840年代、ボヘミア地方(現在のチェコ)のピルゼンで偶然生まれた。この地の醸造家たちが、平凡な地元のエールビールの代わりに、お隣のバイエルンの濃色ラガーに近いビールを造ろうとした結果だ。

ピルゼンの軟水、ハーブのようなチェコ産のザーツホップ、淡色のモルトを生み出せる英国式の釜が組み合わさり、輝く黄金色のラガー「ピルスナーウルケル」が出来上がった。これこそが世界初のピルスナーだ。

アルコール度数は、4.4-4.6%と控えめだ。飲みやすい黄金色のビールの人気は、やがて隣のバイエルンにも広がった。そこで伝統の濃色ビールであるデュンケルと競うため、ヘレスラガーやバイエルン・ピルスが生まれた。

さらには北ドイツにも波及し、一般にイメージされるようなドイツスタイルのピルスナーへと発展していった。こうしたビールはドイツ産のホップを使い、ラガーとしては力強い苦みを持ちながら、ほんのりとしたモルトの甘みを残していた。

19世紀になると、ドイツ移民がピルスナーを米国に持ち込み、国産の大麦麦芽に加え米やトウモロコシなども使ったアメリカンスタイルのピルスナーが造られる。苦みやホップの個性は抑えられ、全体的にマイルドな味わいに仕上がった。

今日味わえるクラフトピルスナーの多くはチェコ、ドイツ、米国いずれかのスタイルを踏襲している。ただ米国の消費者、醸造家双方をとりこにしている第4のスタイルもある。イタリアンピルスナーだ。

イタリアンピルスナーは古い世界の流れをくんだものではない。まさに現代のクラフトビールと言える。1990年代後半、イタリアのブリュワリー、ビリフィーチョ・イタリアーノで醸造されたのが始まりだ。醸造家アゴスティーノ・アリオリ氏が、ドイツのピルスナーをベースに、発酵中や発酵後にアロマホップを加える「ドライホッピング」を施した。

これは今日のIPAで一般的な手法であり、苦みを強調し過ぎずにホップの香りと風味を引き出すことができる。その産物が、シトラスやフローラルの香りを帯びた軽快なビール。ピルスナーモルトをベースに、IPAのような風味を持つ爽快で飲みやすいラガーが生まれた。

ティアニー氏らによれば、ピルスナーが復活した理由はさまざまだという。アルコールを抑えた飲みやすいビールへの需要や、強い味に対する飽きなどが影響した。ヘイジーIPAやサワービールの流行後、消費者は甘さにやや食傷気味で、苦めの味に回帰する傾向も最近見られる。

ティアニー氏は、ピルスナーの流行はしばらく続くとみている。「クラフトビールに親しむ人々が増えるにつれ、味覚が鍛えられてきた。バランスやクリーンな味わい、飲みやすさ、そして優れたクラフトビールを造る技術を評価するようになってきた」と語った。

原題:Pilsners Are Leading a Craft Beer Resurgence in Lager: Top Shelf(抜粋)

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