(ブルームバーグ):世界が新型コロナウイルスによるロックダウン下にあった2021年、米ユタ州のフィットネス・減量リゾート、モヴァラ(Movara)はパンデミック特需に沸いていた。サウスカロライナ州の同様の施設、ヒルトンヘッド・ヘルス(Hilton Head Health、H3)やノースカロライナ州のスカイテラ・ウェルネス・リトリート(Skyterra Wellness Retreat)も数週間待ちの人気だった。
しかし生活が正常化し始めると流れは一変した。米国人は海外旅行に出かけ、米国への旅行を敬遠する外国人も増えた。
そんな苦境の中で、業界にさらに新たな脅威が現れた。肥満治療にもオフラベル使用(適応外使用)が広く行われるようになったGLP-1受容体作動薬だ。GLP-1薬は汗をかく運動や厳格な食事制限なしに長期的な減量効果をもたらすとされる。これはウェルネスリゾートでは決して約束できない成果だ。保険次第では月額500ドル(約7万3000円)程度のコストで済む。
GLP-1薬には、2型糖尿病治療剤「オゼンピック」や肥満症治療剤「ウゴービ」などがある。
こうしてわずか数年で、最盛期から一転して存亡の危機に直面する施設も出てきた。
世界のウェルネス市場は6兆3000億ドル規模に上るが、その一角を占める健康志向リゾート施設が生き残るには、薬を敵視するのではなくプログラムに組み込む必要があるとの見方が広がっている。
モヴァラ共同創業者のミシェル・ケルシュ氏は当初、GLP-1を一時の流行と退け、顧客に推奨しなかった。しかし利用者が急増し目覚ましい成果が出ると考えを改めた。「長年、効果をうたうさまざまな手法が現れては消えていったが、これほどのものは初めてだ」と認識を改めた。
ヒルトンヘッド・ヘルスでは23年に新規客が減少したが、マーケティングや新プログラム導入で翌年には回復したという。新プログラムの「H3エクスペリエンス」は身体と心の健康を総合的かつ個別に捉える取り組みの中で、GLP-1の長所と短所を検討する機会を提供している。
健康のために投資するつもりの人は「減量プログラムに参加するよりもまずはこの薬を試そうとする」というプログラム責任者デービッド・チェスワース氏の考えが、この新プログラムのアイデアの根底だ。
カリフォルニア州マリブで運営されるザ・ランチ(The Ranch)の哲学は厳格な生活スタイルだ。しかし、利用客に更年期の女性やGLP-1使用者が増え、減量後の体重維持や長寿、健康的な加齢といった事柄への関心が高まっている。こうした現状に対応し、6泊で1万2400ドルのGLP-1利用者向けサポート込みプログラムを提供している。
GLP-1の使用に伴う食事面でのニーズなど、新たな課題もある。カナダ・ブリティッシュコロンビア州のマウンテントレック・ヘルス・リセット・リトリートは1-2週間の過酷なフィットネスプログラムで知られるが、GLP-1使用者が筋肉減少や脱水によって体重が落ちるのを防ぐため、栄養素や運動量をホルモンリズムに合わせて調整している。
スカイテラでは地元医師と提携し、GLP-1の利用開始や中止を希望する顧客に医療的助言を提供する。4週間の滞在費は1万8480ドル。
ウェルネスリゾートはこれまでも、時代の流行に合わせて変化してきた。エアロビクスやヨガの流行時には一夜にしてメニューを刷新した歴史がある。
カイザー・ファミリー財団(KFF)の24年の調査によれば、米成人の8人に1人がGLP-1を使用していた。25年には2割に達するとの予測もある。ノボノルディスクはオゼンピックの価格を1000ドルから499ドルに半減させ、イーライリリーは1日1回服用の経口薬「orforglipron」の承認を目指し米食品医薬品局(FDA)に申請する方針だ。
ウェルネスの普及や促進を目的とする国際機関、グローバル・ウェルネス・インスティテュート(GWI)のスージー・エリス会長兼最高経営責任者(CEO)は、今後ウェルネス施設は医薬品とウェルネス、テクノロジーの「新たな融合」を迫られると指摘する。
エリス氏が指摘するように、ウェルネスリゾートはGLP-1薬を避けて通ることはできない。実際、モヴァラのケルシュ氏も今年3月からGLP-1の「ゼップバウンド」を試し、半年で9キロ減量した。副作用はなく、夫や子ども4人も使用を始めたという。
同氏は「視力矯正が必要な人に眼鏡が欠かせないように、体重に悩む人にはGLP-1が不可欠になるかもしれない」と話している。
原題:At Wellness Resorts, Ozempic Becomes Part of the Treatment Menu(抜粋)
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