テキサス州のサブプライム(信用力の低い個人向け)自動車ローン会社が突然破綻し、その衝撃は地元の自動車ディーラーから、JPモルガン・チェースやブラックロックといったウォール街の大手金融機関を巻き込むまでに広がった。数百億ドル規模に成長した自動車ローン証券化市場で、痛みが本格化し始めているとの懸念が生じている。

トライカラー・ホールディングスに不正の疑いがかけられているとの報道が出たのは9日夜。同社はその数時間後に連邦破産法第7条による清算手続きを申請した。金利の急上昇と雇用市場の軟化という向かい風が吹く高リスク融資ビジネスにとって、著しい痛みを伴う打撃となった。事情に詳しい関係者によると、連邦検察当局は詐欺疑惑の捜査を開始した。

トライカラー・オートディーラー店舗(テキサス州)

何年にもわたり、投資家はサブプライム自動車ローン市場に多額を投資してきた。ウォール街の金融商品では享受できない高金利が資金を引き寄せ、その規模は約800億ドル(約11兆7700億円)にまで膨れ上がった。しかし2000年代のサブプライム住宅ブームに見られた熱狂に似て、この飽くことのない投資需要も甘い貸し出し基準や必要なセーフガードの欠如につながったと、一部で批判の声が上がっている。

炭鉱のカナリア

アクソニック・キャピタルのリサーチディレクター、ピーター・チェッキーニ氏は「トライカラーの破産は孤立した出来事のように見えるかもしれないが、サブプライム自動車融資という炭鉱のカナリアではないかという疑問は無視できないだろう」と述べた。

トライカラーのダニエル・チュウ最高経営責任者(CEO)を含め同社幹部にコメントを求めたが、現時点で返答はない。

 

サブプライムの自動車資産担保証券(ABS)市場は確かに800億ドルに成長したが、高リスクの住宅ローン債券市場に比べるとほんのわずかな規模にすぎない。それでもトライカラーの破綻は、ニッチな一企業の崩壊がウォール街全体に波紋を広げ得ることを浮き彫りにした。

トライカラーは2007年に創業。主にテキサス州やカリフォルニア州、ネバダ州の低所得ヒスパニック系コミュニティーで、事業を展開してきた。借り手の3分の2以上が、社会保障番号を持たない不法移民と推定されるとしていた。

多くのサブプライム自動車ローン会社と同様、トライカラーが顧客に提供する自動車ローンの原資は、ウェアハウスファシリティーと呼ばれる与信枠を通じて銀行などが短期で融資。自動車ローン債権を束ねたABSは投資家に販売された。

トライカラーは複数のウェアハウス信用枠に同一担保を重複して差し入れた可能性が疑われていると、関係者らは語った。マンハッタンのニューヨーク州南部地区連邦地検が捜査を進めている。

フィフス・サード・バンコープは9日に届け出た文書で、トライカラーの不正疑惑が発覚した後に最大2億ドルの損失を見込むとしている。JPモルガンとバークレイズもトライカラーへの投融資規模はフィフス・サードと同程度だと、事情を知る関係者は述べた。両行は今週、トライカラーABSの取引を制限したという。

トライカラーの清算申請文書には2万5000を超える債権者や取引先がリストアップされている。このうち約3000万ドルの融資に関わったオリジン・バンクの担当者は「週末に業務上の懸念を把握した」と述べた。トライカラーのダニエル・チュウCEOはオリジン・バンクの取締役も務めていたが、週末に辞任した。

連邦準備制度理事会(FRB)の報告によると、新型コロナ禍後の自動車価格高騰で買い手の借入額が膨らみ、多くの貸し手が融資基準を緩和した。

米国では昨年、自動車の差し押さえ件数が急増し、世界的な金融危機さなかの2009年以降で最多となった。高まる消費者のストレスが経済に波及しつつある兆しだ。

キュラセット・マネジメントのアナリスト、マイケル・ヒスロップ氏は「低所得者層の状況はしばらく前から良くなっていない。最近ではむしろ悪化している」と指摘。「それでも投資家はリスクの高い債券で低リターンを受け入れ続けてきた」と述べた。

トライカラーが6月に販売したABSのうち、1億1900万ドル相当の最上位トランシェは、同社の清算申請を受けて額面1ドルにつき約78セントに下落(トレース調べ)。これより下位のトランシェはさらに悪化し、わずか12セントに急落した。

マッケイ・シールズのポートフォリオマネジャー、ザカリー・アロンソン氏は「投資家に提供されたデータの正当性に疑念が生じているのは、気がかりだ」と語った。

原題:Subprime Auto Lender Collapse Deals Blow to Risky ABS Market (1)(抜粋)

--取材協力:Michael J Moore、Yizhu Wang、Silla Brush、Hannah Levitt、Julie Fine、Paige Smith、Dana El Baltaji.

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