自民党総裁選は5人の争いとなる構図が固まった。物価高対策や野党との連携の在り方、石破茂政権の路線継承などが争点に浮上しており、22日の告示に向け、各候補の政策発表が続く。

茂木敏充前幹事長、小林鷹之元経済安全保障担当相に続き、林芳正官房長官が18日に自身の政策を明らかにした。高市早苗前経済安保相は19日午後に記者会見を開く。小泉進次郎農相も準備を進めている。

林氏は18日の記者会見で、官房長官として支えた岸田文雄、石破茂両政権の「流れを受け継ぎ」ながら、さらに新しいものを付け加えていきたいと述べた。「1%の実質賃金上昇の定着」を掲げる「林プラン」を発表。独自政策として世帯の状況に応じて低・中所得者を支援する「日本版ユニバーサル・クレジット」の創設を提唱した。

小泉氏も石破首相が重視した防災庁の設置や農政改革などの政策を引き継ぐと表明している。これに対し、首相と距離を置いていた高市氏は18日、参院選の全国遊説で「自民党が何をやりたい政党なのかよくわからない、政策から夢や希望を感じない」との厳しい声を聞いたと指摘した。

日本銀行の金融政策への影響も注目されている。高市氏は金融引き締めに批判的な姿勢を示しており、市場関係者の間では利上げペースを緩める可能性があると見る向きもある。小泉氏は政策に介入する姿勢は比較的薄いと見られている。

総裁選(22日告示、10月4日投開票)は石破首相の辞任表明を受けて実施される。党所属国会議員の295票と同数に換算した党員・党友票の計590票を争う。過半数を得た候補がいなければ、国会議員の295票と地方票47票で上位2人による決選投票を行う。

新総裁は就任後、国会での首相指名選挙に臨む。与党は衆参両院で過半数割れしており、野党の対応次第で新総裁が首相に選ばれない可能性もある。立候補の準備を進めている議員の横顔をまとめた。

林芳正官房長官

林芳正氏

2回目の挑戦だった昨年の総裁選では4位だった。政策通として知られ、参院議員時代に農相、文部科学相などを歴任。2021年から衆院に転身し、岸田政権下で外相、官房長官を務めた。石破政権でも官房長官に再任され、政権基盤がぜい弱だった首相を支えた。

解散した岸田派でナンバー2の座長を務めていた。楽器をたしなみ、主要7カ国(G7)外相の前でピアノの弾き語りを披露したことがある。64歳。

18日の会見では賃上げを重視した石破政権の方針を継承する姿勢を示した。ただ、物価高対策で与党が掲げた一律給付の扱いに関しては、参院選の結果と自民党の検証結果も踏まえて「臨機応変に対応したい」と見直す可能性を示唆した。野党との連携の在り方に関しては「その時その時で考えるべきだ」と語った。

主要政策:

  • 金融:官房長官として金融政策の具体的手法は日銀に委ねるとの政府見解を繰り返した
  • 経済財政:「実質賃金プラスを当たり前に」、消費税は社会保障の貴重な財源
  • 外交安全保障:防衛力の抜本的強化、日米同盟の抑止力・対処力の強化
  • その他:国民皆歯科検診、衆院選挙制度改革の議論開始、需要に応じたコメ生産で安定供給確立

小林鷹之元経済安全保障担当相

50歳の小林氏は、若い世代のリーダーの1人と目されている。9人が立候補した昨年の総裁選では中堅・若手議員の支持を得て一番乗りで立候補表明の記者会見を行い、5位に食い込んだ。石破政権では要職につかず、参院選後は首相の早期退陣を促す発言を続けていた。

サラリーマン家庭に生まれ、財務官僚になったが、12年の衆院選で野党だった自民党から出馬し、政界入りした。宇宙資源法など議員立法にも取り組み、岸田内閣で初代の経済安全保障担当相を務めた。

16日の会見では「もう一度日本を世界の頂、テクノロジー大国に押し上げる」とし、戦略産業や地方への投資を掲げた。現役世代支援に重点を置いた所得減税も打ち出した。野党との関係は「数あわせで連立することは本末転倒だ」とした上で、重要政策で一致できるかが大切だとの考え方を示した。

主要政策:

  • 金融:日銀の専管事項、成長経済に入れば自(おの)ずと変わってくるだろう
  • 経済財政:期限を区切った所得税の定率減税と、控除・税率構造を含めた抜本見直し
  • 外交安全保障:防衛費の引き上げ、日米関税交渉の履行体制の確保
  • 外国人政策:住宅用土地取得規制、不法滞在者ゼロの厳格な出入国管理
  • その他:緊急事態条項と自衛隊明記を優先して憲法改正に取り組む

茂木敏充前幹事長

大手コンサルタント会社勤務などを経て1993年の衆院選で初当選。現職幹事長として挑んだ前回の総裁選では6位だった。石破政権では要職から外れた。参院選後はユーチューブで党の再生には「リーダーも含めて主要なメンバーも決めてやり直していく姿」が必要と指摘し、首相を含めた執行部の交代を主張した。

経済産業相、外相、党政調会長なども歴任した69歳。日米貿易協定など通商交渉も担当したことがあり、「タフネゴシエーター(手ごわい交渉相手)」のイメージを売りにする。

2回目の挑戦となる出馬会見で、自民は結党以来最大の危機に直面し、「倒産寸前」にあるとして党再生に自身の経験を生かす考えも示した。数兆円規模の生活支援特別地方交付金の創設を提唱している。国会運営では安定政権を確立するため、日本維新の会や国民民主党を挙げ、新たな連立の枠組みを追求すると明言した。

主要政策:

  • 金融:異次元緩和の段階的な正常化が基本方向、具体的判断は日銀が適切に行う
  • 経済財政:財政にも責任を持たねばならない、2年以内に物価高上回る賃上げ定着
  • 外交安全保障:日米関税合意を着実に実行、「力強くしたたかな外交」行う
  • 外国人政策:これ以上外国人労働者に依存しなくても働き手不足補える対策を取りたい
  • その他:ジェネリック医薬品の業界再編必要、原子力と再エネ組み合わせてGXを進める

高市早苗前経済安全保障担当相

高市早苗氏

英国の故サッチャー元首相を目標とする。学生時代にはヘビーメタルバンドでドラムを担当していた。松下政経塾出身の64歳。2回目の挑戦だった昨年の総裁選では1回目の投票でトップに立ったが、決選投票で石破首相に逆転された。石破政権では要職につかなかったが、高い知名度から参院選でも応援演説で全国を回った。

昨年9月の総裁選期間中に出演したインターネット番組で日本銀行の金融政策について「金利を今、上げるのはあほやと思う」と発言し、利上げをけん制した。今年5月には別の番組で、食料品対象の消費税率(8%)を0%に引き下げるべきだとの考えを示していた。

小泉進次郎農相

小泉進次郎氏

小泉純一郎元首相の次男。自民党が野党に転落した2009年の衆院選で初当選した。44歳。昨年の総裁選では国会議員票でトップだったが、党員票が伸びず3位となり決選投票に進めなかった。菅義偉副総裁に近いとされる。6日には菅氏とともに石破首相を訪ね、自発的に辞任するよう促したと報じられている。

石破内閣発足時に選対委員長を務めたが衆院選敗退を受け、辞任。その後、江藤拓氏が失言で辞任したことを受け、農相に就任した。コメ価格高騰対策では政府備蓄米を随意契約で売り渡す方式を導入し、引き下げに尽力した。石破首相の下、コメ増産を打ち出したが、農家の不安払しょくが課題となる。

国会運営に関しては「自民党だけでもう政治は、国会は動かない」と指摘。物価高対策などで協力を模索し、「政治を動かすことができる、そういったことが問われる総裁選になる」との見解を示している。

(林官房長官の政策発表などを受け、更新しました)

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