サントリーホールディングスの新浪剛史会長が辞任した。同社の国際化を推進し、財界首脳として政治や経済などさまざまな問題について主張を展開したことでも知名度が高い同氏だが、適法と認識していたサプリメントの購入を巡って警察の捜査を受け、会社側から辞職を求められて最後は自ら辞表を提出した。

サントリーHDの鳥井信宏社長らが2日に都内で会見を開いたが、新浪氏は出席せず「会長の仕事を続けることができなかったことは残念」などとする同氏のコメントを山田賢治副社長が代読した。新浪氏は23年から経済同友会の代表幹事を務めており、3日午後に予定通り定例会見を開催する。

きょうの会見では新浪氏から家宅捜索を受けた経緯についての詳細な説明や、政策提言や政府との対話の前面に立つ代表幹事としての立場への対応が注目される。同氏は経済諮問会議の民間議員を務めており、林芳正官房長官は2日の記者会見で、登用継続について「適時適切に対応していく」と述べた。

サントリーHDの子会社であるサントリー食品インターナショナルの株は3日、前日終値を挟む水準で推移している。2日は新浪氏を巡る報道などの一連の動きで乱高下した。

企業倫理

「無罪か有罪かを問わず、企業倫理で判断した」。サントリーHDの山田賢治副社長は2日に都内で開いた会見で、新浪氏が購入したサプリが自社の商品ではないと強調した上で、捜査中でもある新浪氏の問題への対応についてサプリを扱う企業としての重大性を鑑みた結果だと説明した。

鳥井信宏社長は、新浪氏と2度にわたり面談の場を持ち、8月28日には新浪氏を除く全取締役・監査役が協議、辞職を促す方向で一致したと明らかにした。協議を重ねる中で1日に新浪氏から「一身上の理由」で役職を辞任したいとの申し出があったとしている。

新浪氏(2024年12月)

国内の大企業でも経営幹部による不祥事は時折起きているが、多くは進行中の案件が多く企業側は難しい対応を迫られることが多い。

オリンパスでは2024年10月に当時の社長が違法薬物の購入に関する疑いを受けて辞任した。同社のケースでは内部調査の結果、同社の行動規範や価値観などと相入れない行為があった可能性が高いと判断し、辞任するよう求めたところ同氏がこれに応じたという。NHKによると、元社長はその後、東京地裁で有罪判決を受けた。

一方、トヨタ自動車では15年に外国人の役員(当時)が麻薬取締法違反(輸入)の疑いで警視庁に逮捕された。同役員は辞任したものの豊田章男社長(当時)は世間を騒がせたことを謝罪しながら、同役員について大切な仲間だとし「捜査を通じて法を犯す意図がなかったことが明らかになると信じている」と述べていた。東京地検はその後、薬物乱用的な犯行ではないとし起訴猶予とした。

ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)のESGアナリストである本間靖健氏は、新浪氏自身に違法性の認識がなく、捜査によって浮かび上がった「疑義」が発生した時点で辞任しており、株主や消費者を考えたスピード感のある意思決定であったと思われると述べた。

市場関係者からもサントリーHDの対応を評価する声が上がっている。アイザワ証券投資顧問部の三井郁男ファンドマネジャーは「捜査の中身や動向を見る必要は当然あるが、食品メーカーとしてのイメージを重視すれば、今回のような対応はやむを得ない」と指摘。「悪評が広がる前に対応したスピード感は評価される」と語った。

日銀批判も

新浪氏は三菱商事出身。コンビニ大手ローソンの経営トップを務めたあと、2014年にサントリーHDに入社。社長を約10年務めた後、今年3月から会長を務めていた。14年に総額160億ドル(当時のレートで約1兆7000億円)で買収した米ビームとの統合を主導し、サントリーHDの国際化に貢献した。

本業に加えて同氏の知名度を高めたのは財界人としてのさまざまな発言だった。

近年も経済同友会の代表幹事として行き過ぎた円安を懸念して日銀の早期の利上げを促した。故ジャニー喜多川氏による性加害問題では「ジャニーズ事務所のタレントを起用することはチャイルド・アビューズ(児童虐待)を企業が認めること」と述べ幅広い分野で自身の主張を展開していた。

鳥井社長は新浪氏について、「大胆で決断力と実行力のある経営者で尊敬していた」とコメント。サントリーの企業文化を変え、世界で活躍している現状は同氏抜きには実現できなかったと評価。時折涙ぐむような様子を見せ、「二人三脚できなかったことは本当に残念」などと話した。

リスクマネジメントに詳しい関西大学の亀井克之教授は、近年の企業の不祥事対応では小林製薬やジャニーズ問題など対応の遅れが目立つ中、サントリーHDの対応は「新浪氏が潔白かもしれないというリスクを取るものだ」と指摘。自社で扱うサプリメント事業への世間の見方にも関わり、企業イメージが傷つくことを踏まえると、「この段階で動いたことは賢明な判断だった」と評価した。

BIの本間氏は「少なくとも突如辞任したことは事実」として、サントリーHDは新浪氏抜きの経営を軌道に乗せる必要があるほか、捜査への協力や関係者への説明など時間的負担が大きいと推察できると述べた。

(構成を入れ替え、第3段落に官房長官のコメントを追加しました)

--取材協力:古川有希、照喜納明美、横山桃花.

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