(ブルームバーグ):三菱重工業は大量の電力を消費するデータセンターの新増設や老朽化した発電所の建て替えに伴うガスタービンの需要増加をにらみ、生産能力を2年で倍増することを目指している。
三菱重の伊藤栄作社長が都内の本社で29日に行ったインタビューで、発電システムに使われるガスタービンの生産能力3割増を目指してこれまでは取り組んできたが、増加する需要には足りないことから「もっと目標を上げようと私から指示した」と明らかにした。「目安」として2年間で能力を倍増することを社内の目標として掲げているという。
生成AI(人工知能)の普及でデータセンター向けの電力消費増加が見込まれていることなどから、世界の電力需要は2050年までに75%増加するとの試算もある。三菱重や米GEベルノバといったガスタービンメーカーには好機が到来している。ただ、英コンサルティング会社のウッドマッケンジーによると、足下でガスタービン製造設備の稼働率は90%に達しており、生産能力面の制約が成長を抑制する可能性がある。
三菱重の株価は1日の取引で一時前週末比2.5%高の3847円と2週間ぶりの日中上昇率を付けた。東証株価指数(TOPIX)は同0.1%高となっている。

三菱重も好調な受注の一方で、ガスタービンを含むエナジー事業の4-6月期の時点で積み上がった受注残高は5兆3013億円と1-3月期から7.8%増加した。生産能力増加に向けた取り組みを進めているものの、現時点では需要が拡大するスピードの方が上回っており、伊藤社長はガスタービンの受注残高が横ばいあるいは減少になる時期について「今の時点だと分からない」と明かす。
ブルームバーグ・インテリジェンスの北浦岳志シニアアナリストはリポートで、能力増強により、「エナジー部門の2026年3月期、27年3月期の売上高成長率は市場コンセンサスの6-7%を上回る可能性が高まるだろう」との見方を示した。その上で、ガスタービン生産能力の拡大は「受注残高の消化に貢献するとともに、足元で増加基調にあるタービン需要を新規受注に取り込む余地を生み出す公算が大きい」とした。
伊藤社長によると、データセンターに起因する需要については一過性のブームで終わるのか、あるいは継続して伸びていくのかが現時点では見通しにくいことなどから、一部の競合他社のような生産能力増強のための工場新設といった大型の設備投資は行わない方針だ。製造時間の短縮など生産性向上に重点を置いているという。

伊藤社長は、これまでも需要が「ブームのように来て一気に冷え込んでというのを何度も経験している」と振り返る。逆に脱炭素化の流れの中でガスタービン需要はなくなり全て再生エネルギーに置き換わるとする向きが強まった時期も経験しており、「なるべくリーン(ぜい肉がない)状態に維持するというのは大事な考え方だ」と設備投資に慎重な理由を説明した。
データセンター向けの今後の伸びについては不確実性がある一方、各国で1990年代以降に建設された火力発電所の建て替え需要もあるという。伊藤社長は年間で「最低でも40ギガワット」のガスタービンの世界需要が少なくとも10年間続くと見込んでいると話した。
(識者のコメントと株価を追加して更新します)
--取材協力:谷本慧美.
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