(ブルームバーグ):ホワイトハウスはようやく、米連邦準備制度理事会(FRB)に突きつけていた要求を一部実現できるかもしれない。パウエル議長が9月の次回連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利を下げる可能性を示唆したからだ。しかしトランプ大統領はそれを自分の功績であるかのように見せないよう、注意した方がよい。
普通なら、独立したFRBというものは大統領府にとって都合が良い。つまり物価安定の維持と最大限の雇用確保は、FRBが議会から託された責務であり、FRBはその責務を遂行するために金利を設定する権限を有する。経済的視点に立つと、そうした自主性を中央銀行に与えるのは非常に成功していることが分かる。ほとんどの国がこれを採用しているのはそのためだ。政治的視点に立っても、大統領はいくらでも金融政策を非難しながら、その結果に責任を持たずに済む。経済がうまくいけば自分の手柄にし、うまくいかなければ他人のせいにできる。
それにもかかわらずトランプ政権はFRBに利下げを強要しているようだ。トランプ氏は今週、住宅ローン不正の疑いがあることを理由に、クック理事に解任の通知をソーシャルメディア上で突きつけ、FRBへの攻撃を新たなレベルに引き上げた。パウエル議長への圧力は、FRB本部ビル改修工事の予算管理問題に関する追及を含め、数カ月前から続いている。これまでにFRB当局者を批判してきた大統領は少なくないが、トランプ政権の場合は別次元だ。
こうした圧力がFRBの金利政策に与える影響は、当面小さいと考えられる。パウエル氏の議長任期は2026年5月、クック理事の任期は38年1月までだが、いずれの職務も厳格に保障されており、両氏とも辞任の意向を否定している。政策金利を決定するFOMCは19人のメンバーで構成されており、その大半は短期的な政治的配慮よりも責任ある経済運営を重視している。トランプ政権下で交代させられる可能性のある理事は、ほんの数名にすぎない。条件が整い次第、金利は下がるのが適切だとメンバーらは大筋で一致している。
それでも受け止められ方というのは大事だ。FRBが大統領の意向に従っていると見なされれば、結果は大統領の望むものと正反対になる可能性が高い。権限を奪い取られた中央銀行ではインフレを抑制できないだろうと、投資家は不安になり、経済の幅広い面で指標とされている長期国債利回りが上昇するだろう。そのシグナルはすでに発信されている。トランプ大統領がクック理事解任に言及し始めた後、30年債利回りは数ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上振れした。失われた信頼感を取り戻すには、最終的に短期金利を従来の想定以上に押し上げる必要性が生じるかもしれない。そうなればリセッション(景気後退)という代償が伴う。
先週の時点では、市場はまだFRBの独立性を信頼しているようだった。パウエル氏がジャクソンホール会合で9月利下げの可能性を示唆すると、すべての年限の国債利回りが大きく低下し、中央銀行が依然として主導権を握っているとの市場の信認が示された。従って、貿易や財政政策の誤りによって状況が複雑化しているとはいえ、FRBがインフレ率を2%の目標に下げつつ景気後退を回避する「ソフトランディング(軟着陸)」を達成する可能性は残されている。

この繊細なプロセスを乱さないことは、大統領にとってこれまで以上に大事だ。干渉すればその分、大統領は望んでいたものを得られそうな局面で歯車が狂うリスクが高まる。
原題:Firing Lisa Cook Won’t Bring Down US Interest Rates: Editorial(抜粋)
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