(ブルームバーグ):米宇宙開発企業スペースXを率いるイーロン・マスク氏は、急成長を遂げる旅客機向けWi-Fi市場に着実に食い込み、衛星通信サービス「スターリンク」を通じて、ここ3年ほどの間にエールフランスやカタール航空、ユナイテッド航空などの有力航空会社と契約を結んできた。
アラスカ・エア・グループは20日、来年からスターリンクを導入すると発表。ヴァージンアトランティック航空も7月上旬にスターリンク採用で合意した。

事情に詳しい複数の関係者は、ブリティッシュ・エアウェイズもライバルのヴァージンに続く可能性があると明らかにした。マスク氏が収益性の高い大西洋路線で新たに旗艦キャリアを取り込む可能性がある。
しかし、マスク氏はさらに大きな市場を狙っている。業界でも特に先進的とされる航空会社が集まり、長距離国際線の接続拠点として世界的な地位を築いている中東だ。
ブルームバーグの報道によれば、スペースXは世界一の長距離機材保有数を誇るエミレーツ航空と協議を進めている。同航空の本拠地はアラブ首長国連邦(UAE)のドバイだ。
また、マスク氏のチームはガルフ・エアやフライドバイにもスターリンクを売り込んでおり、現在は中東3位の航空会社であるサウディアと交渉が進んだ段階にあると事情に詳しい関係者は述べている。

中東の航空会社、特に高級ブランドとして知られるエミレーツ航空との契約を獲得すれば、スターリンクにとって、エコスターやビアサット、SESといった従来からある通信事業者との世界的な競争において画期的な転機となる可能性がある。
しかし、これらのライバル企業も黙って市場を譲るつもりはない。むしろ事業計画の見直しや積極的な提携・買収を進め、1000億ドル(約14兆7000億円)規模の衛星通信市場で急成長を遂げている航空機向けインターネットサービス分野を巡る争いが激しさを増している。

スペースXは約8000基の衛星を介して業界最速のインターネット通信を提供することで、世界の航空市場で足場を築いた。同社はスターリンク技術をサブスクリプション形式で提供しており、航空会社は機材の設置費用と座席ごとの接続料金を毎月支払う仕組みだ。
例えば、ボーイング737へのスターリンク導入には1機当たり約30万ドル、「ドリームライナー」として知られるより大型のボーイング787では50万ドルかかると、ブルームバーグが確認した資料には記載されている。
座席ごとの月額料金は、契約期間など複数の要因により異なるが、一部のケースではスターリンクのサービスは月額約120ドルで提供され、さらにライブテレビの利用には同額の120ドルが加算されると関係者の1人は話した。
複数の関係者によれば、交渉は今も続いており、航空会社ごとに異なる戦略を採用し得る。フライドバイは「成長プランに沿った最適な接続オプションを幾つか検討している」とコメント。ガルフ・エアはコメントを控え、サウディアからは回答がなかった。
エミレーツ航空は機内サービスを最高水準に維持することに尽力していると述べるにとどまり、契約についての言及は避けた。ブリティッシュ・エアウェイズの親会社IAGもコメントしなかった。
かつて、機内でのインターネット接続は導入費用が高く、乗客にとっても使い勝手の悪いぜいたく品だった。
しかし今、多くの航空会社が高速かつ信頼性の高い代替手段の導入を急いでいる。長距離フライト中に動画の視聴や仕事、連絡手段の確保が可能になれば、機内での体験が一変する可能性がある。
原題:SpaceX Gets Into In-Flight Wi-Fi Market With Eye on Middle East (2)(抜粋)
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