米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が利下げの可能性を示唆したことで、市場はひとまず安堵(あんど)の空気に包まれている。次に試されるのは、ここ数年の株高をけん引してきた「人工知能(AI)の熱狂」が本物かどうかだ。

S&P500種株価指数は21日まで5営業日続落と、1月以来最長の下落局面を記録し、投資家心理は弱気に傾いていた。ウォール街はFRBが借り入れコストを早期に引き下げるとの見方を後退させていたが、パウエル議長の発言によってこうした懸念が一掃され、同指数は5月以来の大幅高となり、史上最高値まであと2ポイント未満に迫った。

そして今週は、エヌビディアに注目が集まる。同社は27日の通常取引終了後に四半期決算を発表予定だ。AI関連支出の見通しをめぐる不安を払拭(ふっしょく)し、今回の株価上昇が単なるハイテクバブルでないことを裏付けるよう期待されている。

スチュワード・パートナーズ・グローバル・アドバイザリーのマネジングディレクター、エリック・ベイリー氏は「エヌビディアは株式市場にとって極めて重要だ。さらなる成長の兆しが見られれば、相場再加速の原動力になる」と語る。一方、「AI投資が期待通りの成果を出せず、見通しが慎重なものにとどまれば、AI投資のピークが近いとの懸念が強まり、市場に動揺を与えるリスクがある」とも指摘する。同氏はエヌビディア株を保有しているが、大幅な上昇を受けてヘッジの導入を始めたという。

エヌビディアは現在、S&P500種の構成比で8%近くを占める最大の銘柄であり、AI開発の中心に位置しているため、株式市場全体の「先行指標」としての役割を果たしている。同社の半導体はさまざまな用途に使われており、売上高の約40%はメタ・プラットフォームズ、マイクロソフト、アルファベット、アマゾン・ドット・コムの4社からのものだ。これらはいずれもS&P500種の上位10銘柄に入っている。

 

こうした背景から、エヌビディアの四半期決算と今後の見通しは、マーケット全体にとって極めて重要なイベントとなっている。

重圧の中で

ボケ・キャピタル・パートナーズのキム・フォレスト最高投資責任者(CIO)は「圧力はなお非常に強い」と指摘。「過去数年の株式市場は、エヌビディアとその『仲間たち』に大きく支えられてきた。だから、私は少し神経質になっている」と述べた。

もっとも、投資家がエヌビディアの決算内容をまったく予測できないわけではない。同社の大手顧客は、今期の決算シーズンですでにおおむね堅調な業績を発表しており、設備投資への数十億ドル規模の支出継続を約束している。これは、エヌビディアの業績や見通しにとっても好材料だ。

Bライリー・ウェルスのチーフ市場ストラテジスト、アート・ホーガン氏は「エヌビディアが決算を発表するのは、ちょうどテクノロジー株に対する市場の評価が揺らいでいるタイミングが多い。そして実際、この2週間はまさにそうだった」と述べた上で、「エヌビディアは、相場のプラス材料になり得る」と続けた。

 

エヌビディア株は22日に1.7%上昇し、3日続落に終止符を打った。3日続落は1カ月ぶりで、株価は8月初めに記録した過去最高値まであと3%未満の水準に回復している。

ウォール街のアナリストは、同社が発表予定の5-7月(第2四半期)の調整後1株利益について、前年同期比48%増の1.01ドル、売上高は同54%増の460億ドル(約6兆7600億円)余りと予想している。

もちろん、強い決算が出ればエヌビディア株が一段高となり、市場全体を押し上げる可能性があるが、期待に届かない内容はたとえ市場がそう感じただけでも、相場の上昇はそこで止まり、逆に下押し圧力が強まるリスクもある。ブルームバーグがまとめたデータによると、オプション市場では株価が上下どちらかに6%動くとの見方が織り込まれている。

利下げはエヌビディアのようなグロース株には追い風となるが、バリュエーションが高すぎるとの懸念は解消されない。S&P500種の予想株価収益率(PER)は約22倍と、過去10年の平均である19倍を上回っている。エヌビディアの予想PERは約34倍と、過去5年平均の39倍を下回ってはいる。

「鼻血が出るレベル」

スチュワードのベイリー氏は「現在の株価バリュエーションは、まさに鼻血が出るほど高い」と指摘。その一方で、「投資家はAI銘柄が今後も素晴らしい業績を出し続けるという期待から、それを無視している」と語った。

エヌビディアが直面している懸念事項の一つは、中国での販売が可能かどうかだ。トランプ政権は最近、エヌビディアおよびアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)に対し、中国へのAI半導体販売による収入の15%を米政府に支払うことを条件に、中国での販売再開を許可した。

しかしその直後、中国当局は国内企業に対し、米国の輸出規制に準拠しつつ中国向けに設計されたエヌビディア製のAIアクセラレータ「H20」製品の使用を控えるよう促した。このため、エヌビディアは部品サプライヤーに対し、「H20」に関連する生産を停止するよう求めたと、米メディアのジ・インフォメーションが報じた。

ジョーンズ・トレーディングのチーフ市場ストラテジスト、マイケル・オルーク氏は「市場はエヌビディアがいずれ中国市場に復帰できると期待していた」とした上で、「しかし今、米政府はH20を『事実上時代遅れ』と認識したうえで販売を許可したとしており、中国側はこれに反発している。さらに中国は、エヌビディアのチップが外部によるリモートでのアクセスおよび制御を可能にする『バックドア』の手段として米国に使われるのではないかと懸念している」と述べた。

ウォール街のアナリストは、エヌビディア株に対して長らく強気の姿勢を崩しておらず、現時点でも懸念すべき材料はほとんどないとみている。ブルームバーグがまとめたデータによれば、同社をカバーする79人のアナリストのうち、直近1週間で少なくとも9人が、堅調な四半期決算を見込んで目標株価を引き上げており、平均は194ドル超となっている。これは、22日の終値178ドルから約9%の上昇余地があることを示唆している。

もちろん、来週の市場に影響を与える要因はエヌビディアの決算だけではない。29日に発表される個人消費支出(PCE)コア価格指数を通じたインフレ動向にも注目が集まっている。ただ、現時点でウォール街を支配しているのは、エヌビディアの決算が失望を招き、株価の急落を引き起こす可能性に対する警戒感だ。

スチュワードのベイリー氏は「経済は関税の影響や雇用の伸び鈍化に直面している。高値圏にあるこうした銘柄は、悪材料が出れば大きく値を崩す可能性がある。特定銘柄への依存度が高い集中リスクにさらされており、市場全体も危うい」と指摘した。

原題:Nvidia Earnings Are the Stock Market Risk Event After Fed Rally(抜粋)

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