インドの金融中心地ムンバイでは、富の増大とともに高級設備の需要が高まり、居住用のスペースがますます縮小している。

土地に余裕のないこの都市では、住宅デベロッパーが各戸の専有面積を縮小する一方で、プールや芝生、ジムといった共用施設により多くの空間を割り当てるプロジェクトが進んでいる。騒音や大気汚染、交通渋滞などに悩まされている住民が、家族や職場への近さを重視し、快適さにより高い対価を支払うことをいとわないためだ。

他のインドの都市と比べ、ムンバイの高層住宅では、建物全体で共用部分の面積が占める比率が最も高い。同国の不動産業界ではこれを「ローディングファクター」と呼び、ムンバイで今年建設された住居用ビルでは平均43%となっている。これは1000平方フィート(約93平方メートル)と銘打たれた物件の場合、430平方フィートが共用部分に充てられ、残り570平方フィートが居住者の専有部分となる。

ムンバイの不動産コンサルティング会社アナロックの地域ディレクター兼リサーチ・アドバイザリー部門責任者プラシャント・タクル氏は、最近の住宅購入者は基本的な生活設備だけでは満足せず、「フィットネスセンターやクラブハウス、庭園、豪華なロビーを求めている」と説明した。

 

世界で最も高い経済成長を遂げているインドでは近年、株式市場の活況や新規株式公開(IPO)の増加を背景に富裕層が急増しており、不動産市場にも影響を及ぼしている。英不動産コンサルティング会社ナイトフランクの推計によると、保有資産が3000万ドル(約44億円)を超えるインド人は、2022年の1万2495人から28年には1万9908人に増加すると予想される。

ブームの中心地はムンバイだ。ムンバイの不動産コンサルティング会社アナロックのデータによれば、住宅価格は25年第1四半期に1平方フィート当たり平均1万6900ルピー(約2万8000円)と、前年同期の1万4600ルピーから上昇。高級住宅街のウォルリ地区では、今年1-3月に7万5300ルピーに達した。

ムンバイ・ウォルリ地区には高級マンションが立ち並ぶ

ムンバイ市内では、地下鉄延伸や新空港の建設、道路改良など大規模なインフラ整備が進んでいる。渋滞緩和を目的としたものだが、すでに不足していたオープンスペースや歩行空間をさらに縮小させる結果をもたらした。このため、住民はレクリエーションや社交施設を備えた住宅に高額を支払うようになっている。

同市のデベロッパーは、このような施設の開発を競い合っている。ラヘジャ・ユニバーサルが開発し23年にオープンしたムンバイ北部の高層住宅「ザ・リビエール」は、同社ウェブサイトによると、地上205メートルに世界一高いスカイジムとインフィニティプール、ラウンジを備えている。市内の他の開発プロジェクトでは、プール内にエクササイズバイクなどの専門器具を備えた「ハイドロジム」のような施設も提供されている。

不動産価格の上昇と高級設備への需要の高まりを受け、インドのデベロッパーは高級住宅の建設にほぼ全面的に集中するようになっている

不動産価格の上昇と高級設備への需要の高まりで、インドのデベロッパーは高級住宅の建設にほぼ全面的に集中するようになっている。ナイトフランクの6月のリポートによると、25年のインドの住宅販売総数のほぼ半分は、価格が1000万ルピー以上の高級物件だった。一方で、500万ルピー未満の住宅の割合は、18年の54%から25年上期には22%に低下した。

マンチェスター大学でインドの住宅市場を研究するサヒル・ガンジー助教(不動産・都市経済学)は、高級設備の需要拡大に伴う住宅価格の上昇は、低所得層や中間所得層の労働者の通勤時間を長引かせ、「生活水準を悪化させる」と指摘した。

(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)

原題:Mumbai High-Rises Pack in Pools, Gyms and Greenery (Correct)(抜粋)

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