おわりに~都市と地方、それぞれの暮らしの実情に応じた支援策を
本稿では政府統計を用いて、そこに暮らす人々の属性に注目しながら、地方と都市における二人以上勤労者世帯の支出構造の違いを分析した。その結果、冒頭で触れた「地方は生活コストが安い」という通説は、実際にはより複雑で多面的な実態があることが分かった。
まず、物価面では確かに東京都区部で住宅コストが突出して高く、日常生活費も全国平均を約5%上回っている。
しかし、地方でも地理的条件により光熱費や食料品の価格が高い地域があり、必ずしも「地方=安い」とは言い切れない構造が見えた。
世帯属性の分析では、地方の小都市では共働き子育て世帯の比率がやや高く、持ち家率や住宅面積でも優位にある一方、年収水準は都市部より低い傾向があった。
対照的に都市部では高収入層が集中し、大企業勤務者の割合も高いが、住宅取得の面では制約が大きい様子がうかがえた。
消費支出の分析では、こうした世帯属性の違いが消費構造に明確に反映されていた。都市部では高所得を背景に外食や教育、娯楽などのサービス消費が多い一方、地方部では自動車維持費や光熱費など、地理的・気候的条件によって避けられない基礎的な生活維持コストがかかる様子が見て取れた。
本分析は統計データに軸足を置いたものだが、統計の背後には、それぞれの地域で日々の暮らしを営む人々の選択と工夫がある。
地方部での自動車維持費や光熱費の高さも、都市部での教育投資の集中も、その土地の条件の中で、移動手段や住まいの選び方、子どもへの教育投資などを工夫しながら、より良い生活や家族の将来を築いている結果と言えるだろう。
政策立案においては、こうした暮らしの実態に根ざした視点が不可欠である。
これらの結果は、地域間格差の是正や地方創生を考える上で重要な示唆を与えている。地方の生活費負担軽減には、単純な所得向上策だけでなく、公共交通の今後の在り方やエネルギー効率の改善、デジタル化による移動コストの削減など、地域の構造的特性に応じた多角的なアプローチが重要な視点となる。
一方で、都市部においても教育投資の集中化による格差拡大や住宅取得に伴う負担の重さという特有の課題が存在する。
今後は、それぞれの地域における暮らしの実情を理解した上で、地域特性に応じたきめ細かな政策支援を行うことが、真の意味での地域間格差是正と国民生活の向上につながると考えられる。
※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 生活研究部 上席研究員 久我尚子
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