都市と地方の支出構造の違い~所得格差が消費を左右、地方は移動・エネルギーコストが高い

次に、二人以上勤労者世帯の消費支出を確認する。支出額は都市部ほど多く、地方部ほど少ない傾向がある(図表4)。例えば、東京都区部と小都市B・町村を比べると、その差は月平均で7.7万円、小都市B・町村の支出額の25.4%に相当し、年間では90万円を超える。

こうした差には「生活コストの低さ」という要素もあるだろうが、先に見た消費者物価地域差指数によれば、東京の日常生活費は全国平均より約5%、物価水準の低い地方と比べても約1割高い程度にとどまっていた。

したがって、この支出額の差は、前節で示した世帯年収の顕著な差が可処分所得の違いとして表れた可能性が高い。

一方で消費の内訳を見ると、地域による消費行動の違いも見える。「交通・通信」(自動車関係費を含む)や「光熱・水道」は地方部で多く、それ以外の費目は都市部で多い傾向がある。

中でも都市部で顕著に多いのが「食料」である。東京都区部では全国平均より月1万6,616円(全国の支出額の18.9%)、小都市B・町村と比べると2万6,008円多い(小都市B・町村の支出額の33.1%)。

内訳では特に外食の差が大きく、東京都区部(25,878円)では小都市B・町村(13,200円)の約2倍にのぼる。この背景には、可処分所得の差に加えて、都市部の方が飲食サービスの供給量や選択肢が多いこと、さらに比較的若い勤労者世帯が多く、利便性を重視する消費志向が高いことがあげられる。

このほか、東京都区部では「教養娯楽」(全国平均+11,356円、全国の支出額の35.9%)や「住居」(同+10,552円、同55.4%)、「教育」(同+10,307円、同55.8%)の支出も目立つ。

いずれも物価水準の差を大きく上回っており、可処分所得の多さに起因する需要の強さによるものと考えられる。また、「教養娯楽」には旅行やレジャー、理美容などのサービス消費が含まれ、外食と同様に、都市部ではサービス供給が豊富であり、収入が多いことで時間をお金で補う傾向が全体的に表れているのだろう。

ところで、「教育」については、東京都では政策的要因から物価水準が全国を下回っていた。それにもかかわらず支出額が全国平均を大きく上回るということは、東京都区部の教育需要の旺盛さを示している。

私立校や学習塾、習い事といった選択肢が豊富で、競争的な進学環境の中、教育投資を惜しまない世帯が多いことが背景にある。さらに、前節で見た通り都市部の方が子育て世帯の比率がやや少ないことを考慮すると、子育て世帯あたりの教育投資額はより高額になっていると考えられる。

これは都市部における教育投資の集中化と世帯間の教育格差拡大を示唆している。

一方で、地方部で多い「交通・通信」費については、物価水準自体は東京都で比較的高い(103.2、関東地方は100.9)。内訳を見ると、地方部では「自動車等関係費」の中でも「自動車等維持費」が特に多く、小都市B・町村では東京都区部の約2.5倍に達する。ガソリン代、自動車保険、車検・整備費など、日常生活に車が欠かせない構造があらわれている。

また、都市部では「交通」費が多く、鉄道やバスなどの公共交通機関の利用が生活に組み込まれている様子がうかがえる。このように、地方部では公共交通が整備されている都市部と比べて移動コストが高くなる構造がある。

「光熱・水道」も地方部で多いが、前述の通り、物価水準も北海道地方(119.6)や東北地方(108.6)を中心に地方部で高くなっていた。改めて地域別に全国平均との支出額の違いを見ると、北陸地方や東北地方、北海道地方などでは物価を考慮しても全国平均を上回っており、寒冷地では暖房用エネルギーの負担が大きい様子がうかがえる。加えて、これらの地方では住居面積が広いため、年間を通じてエネルギー支出が高くなる傾向が読み取れる。

以上より、都市と地方の消費の違いには、所得差による全体的な支出水準の差と、地域の構造的特性による費目別の違いという二重構造から成り立っている。

都市部では高所得を背景に、外食や教養娯楽、教育といったサービス消費や選択的支出が多い一方、地方部では地理的・機構的条件を背景にした移動・エネルギーなどの基礎的な生活維持コストが構造的に高くなっている。

このことは、「地方は生活コストが安い」という通説が一面的であることを示している。確かに地方では物価や住宅費は抑えられるが、車の維持費や光熱費といった避けられないコストがかかり、所得水準も低い傾向がある。

したがって、地方の生活費負担を軽減するには、単なる所得向上策に加えて、公共交通の利便性向上やエネルギー効率の改善など、地域の構造的な課題への対応も重要な視点となる。都市部が「豊かさを追求する」消費であるとすれば、地方部は「自然環境や広域性に適応する」消費構造と言える。