(ブルームバーグ):米サブプライム(信用力の低い個人向け)自動車ローン会社トライカラー・ホールディングスの創業者ダニエル・チュー氏は、投資家に事業を説明する際、中古車販売会社として「エンド・ツー・エンド」モデルを売りとして強調していた。自社で車を販売し、購入者に融資を行い、返済が滞れば即座に車を差し押さえて再び販売するという仕組みだ。
この迅速さと効率性は、高リスク融資に対する投資家の不安を和らげた。こうして同社は長年にわたり、低所得者層向けに車の販売と融資を一括して提供する「バイ・ヒア・ペイ・ヒア」業界の模範とみなされる存在となった。政府もコミュニティーに密着した同社の事業を評価し、トライカラーの融資を裏付けとする債券の多くは格付け機関から高い評価を受けていた。
しかし、その表向きの姿は先月、瞬く間に崩れ去った。トライカラーが突如、破産法の適用を申請したことで、債権者はこれまで健全と信じていた事業モデルの見直しを迫られている。大手金融機関は数十億ドルに上るとみられる債権の回収を急いでいるほか、当局は不正の疑いについて調査を進めている。トライカラーの顧客は宙に浮いた状態に置かれている。
破綻に至った経緯の一部はトライカラー特有の事情によるものだが、透明性や監督が欠如する業界全体の問題も一因で、トライカラーの実態を覆い隠していた可能性がある。格付け会社によると、サブプライム自動車ローンへの旺盛な需要がバイ・ヒア・ペイ・ヒア業者への資金流入を支え続けてきた。トライカラーの同業には、ドライブタイム、バイライダー、アメリカズ・カーマートなどがある。
全米消費者法センターの上級弁護士ジョン・ファン・アルスト氏は「社内ですべて完結している場合、誰かがやり方を監視したり、本気で関心を持ったりする動機が著しく乏しくなる」と話す。
チュー氏は法外な金利で批判の的になりがちな自動車市場の一角において、トライカラーを「良識ある企業」として投資家にアピールしていた。多くの自動車販売店は販売と融資業務を分けているのに対し、トライカラーや同業他社は車の販売と支払いプランの設定を一体で手掛けていた。金利は20%以上に達することも多いが、信用履歴が乏しい、あるいは全くない購入者にとっては、より低い金利の選択肢がほとんどないのが実情だ。
トライカラーはJPモルガン・チェース、バークレイズ、フィフス・サード・バンコープといった銀行大手からの多額の信用枠で融資資金を確保。その後、これらの融資をまとめて証券化し、投資家に販売していた。債券投資家にとっては、トライカラーの統合モデルにより、借り手の返済が滞った場合には迅速な対応が可能だとみられる点は魅力だった。車を差し押さえて再販売することで、不良債権を健全な新たなローンに置き換えることができると受け止められていた。
緩い法規制
米国では、自動車ローン会社が自社のディーラー網を通じて車を差し押さえ、再販売することが認められている。州によって規制の厳しさは異なるが、トライカラーが事業を展開していた地域では比較的緩やかだった。例えば、同社のディーラー店舗が多く集まっていたテキサス州では、車の差し押さえ後に再販売先を明らかにする義務がなく、所有者が車を取り戻そうとしても難しい場合が多い。
差し押さえの時期に関する規則も州によって異なる。テキサス州では、トライカラーは裁判所の命令なしに車を差し押さえることが可能で、その分だけ再販売までの期間を短縮できた。一方、同社が事業を展開していたカリフォルニア州では、差し押さえの前に借り手に15日間の猶予を与え、滞納分の支払いを行う機会を設けることが義務付けられている。
ジョージア大学ロースクールのパメラ・フーヒー教授(破産法)は「自動車販売や自動車ローンの市場には法規制がほとんど存在しない」と指摘。その上で「その両者が交わる部分ではさらに規制が乏しい」と話した。
一方、全米で違法とされている行為もある。例えば、車の所有者が破産手続きを申請し、車の保有を続けようとする場合、貸し手は差し押さえや再販売を行うことはできない。差し押さえた車に対して新たなローンを組む場合は、古いローン契約を完全に清算しなければならない。また、同じローンを複数の債権者への担保に使うことも違法行為だ。
当局や債権者は現在、トライカラーが1台の車に複数のローンを紐付けていた可能性について調査を進めている。初期調査によると、少なくとも2万9000件のローンが、すでに他の債務の担保となっている車に関連していたとみられることが分かった。
破産管財人に任命されたアン・バーンズ氏が裁判所に提出した文書によれば、トライカラーの事業に関する初期調査では「異常な規模」の「広範な不正」が示唆されている。
チュー氏およびバーンズ氏の弁護人は、コメントの要請に応じなかった。
見えない実態
ブルームバーグの取材に応じた会計士や弁護士によると、トライカラーの破綻以前から、監督当局や貸し手が同社の財務状況を把握する手段は限られていた。トライカラーは消費者への融資を行うために、少なくとも3行からオープン型の信用枠を利用していた。この仕組みは一般的かつ効率的であり、トライカラーにとっては銀行に担保資産を毎回精査してもらうことなく、自動車販売の資金を調達できた。
その代償として、銀行側はどの資産が実際にローンの裏付けになっているかをリアルタイムで把握できなかった。専門家によれば、銀行は資金を提供した後、自らのデューデリジェンスの一環として任意のタイミングで監査を実施する権利を持つが、通常は年1-2回程度であり、一律の基準は存在しないという。さらに、銀行側は他の信用枠に担保として差し出された資産の詳細を把握することもできなかった。
自動車販売と融資を一括して手掛けるトライカラーのような企業は、融資をまとめて証券化することが主要な収益源だ。こうした取引を手がける銀行は、証券の担保を確認するために企業に対して一般的なチェックを求めるが、実際に検証されるのは融資全体のごく一部にすぎない。
例えば、デロイト・アンド・トウシュが2024年1月に実施したトライカラーのローン簿の限定的な調査では、約1万4000件のファイルの中から150件を無作為に抽出したのみだった。デロイトはまた、車両および借り手の情報がトライカラーの融資管理データと一致するかを確認する上で、同社の内部資料に依拠していた。
デロイトは米証券取引委員会(SEC)に提出した投資家向け開示資料の中で、トライカラーの資料の正確性または完全性についていかなる表明も行っていないと述べている。
高い格付け
格付け機関も、トライカラーの事業慣行に対して特段の警鐘を鳴らしていなかった。これらの機関は債券の裏付けとなる担保、つまりトライカラーが融資した自動車ローンを分析し、デフォルト(債務不履行)が発生した場合に投資家がどの程度資金を回収できるかを評価している。
S&Pグローバル・レーティングは6月、トライカラーの総額2億1700万ドル(約330億円)の債券ディールを評価し、そのうち少なくとも60%に「AA」の格付けを付与した。これは、S&Pが担当したアメリカズ・カーマートなど、トライカラーの同業他社よりも高い格付けだった。
S&Pのアナリストは当時のレポートで、「契約の有効性や債権回収の慣行が争われた場合、リスクが高まる可能性がある」と指摘。その上でトライカラーが各ローンについて「すべての法律に準拠している」と表明したと述べた。また、同社にコンプライアンス部門が存在していた点をリスクの抑制要因として挙げていた。

原題:Tricolor’s Busted Money Machine Has Wall Street Rethinking Risks(抜粋)
--取材協力:Victor Swezey.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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