(ブルームバーグ):米潜水艦が、イラン海軍の艦船デナを撃沈した。米国が敵の軍艦を撃沈したのは1945年以来、つまり第2次世界大戦後初めてだ。デナが沈んだのは、母港から2000マイル(約3220キロメートル)離れ、スリランカの領海から7カイリ(約13キロ)の地点だった。
この二つの数字は重要だ。アジア各国は、米国がもはやこの海域における信頼に足る責任ある存在ではないと受け止めるだろう。その結果、米国の影響力は著しく弱体化することになる。デナはスリランカの領海内ではなく、排他的経済水域(EEZ)内にいた。
米政府は、数千マイル北にあるホルムズ海峡の海運に対する潜在的脅威を攻撃する権利があったと主張している。しかし、それは論点を外している。アジア側が不安を抱いているのは、米国がいつ、どのように攻撃を選択したかだ。
デナは主として儀礼的な海軍演習から帰還する途中だった。この演習には73カ国が参加。皮肉にも米海軍も加わり、他の参加国海軍と対潜戦訓練を実施していた。
受け入れ側だったインド海軍は、イラン人乗組員を歓迎する写真をSNSに投稿していた。乗組員がインド大統領の前で行進する様子や、地元の観光名所を訪問する姿の画像も広く共有されていた。
ニューデリーの政治・軍指導者にとって、インド主催の演習を終えて出航する艦船を攻撃する米国の決定は、直接的な侮辱に等しい。
インド側は、ホスト国には来賓を防衛あるいは報復する責任はなかったと言わざるを得なかった。その説明をこれほどまでに強調していること自体、技術的・法的には正しくとも、道義的・政治的にはそうではないことを示している。
これはモディ首相にとって不要な恥辱だ。有権者がモディ氏に期待しているのは、インドが敬意をもって扱われ、首相自身が誰からも威圧されたり欺かれたりしないことだ。ここ数週間、そうした信任が試されている。
モディ氏は通商問題でトランプ米大統領に譲歩し、これまで閉ざされていたインド農業の一部を開放したように見える合意に応じた。長年のパートナーであるイランへの攻撃が始まったのは、モディ氏がイスラエル訪問を終えて数日後だった。
中東など国外にも広く住むインド人を脅かす戦争が支持されることはない。化石燃料輸入に依存するインドではコストが急上昇し、湾岸諸国の空港を利用する旅行者も足止めされた。
さらに、カシミールなど問題を抱えた地域では、シーア派イスラム教徒が権力の重要な支柱となっている。そのため、米軍によるハメネイ師殺害は国内の治安維持をかなり複雑化させた。
暗黙の前提
こうした中、モディ氏は、なぜ米国が「われわれの監視下で、われわれの海の裏庭」で艦船を攻撃したのかを説明する立場に置かれている。
とりわけ、デナは演習の慣例通りほとんど、あるいは全く弾薬を搭載していなかったとの見方がインド国内で広く信じられている。これを踏まえればなおさらだ。
スリランカ政府も同じく試練に直面している。デナは領海のすぐ外にいたが、寄港許可を求めており、まだ承認は下りていなかった。遠く離れた湾岸で、船舶を攻撃しようと急ぐ軍艦の行動とは思えない、と見る向きもある。
その後、ディサナヤカ大統領は国民向けのテレビ演説で、非武装のイラン海軍補助艦ブシェールの乗組員に速やかに避難所を提供したと告げる以外の選択肢はなかった。同艦をコロンボ近海に停泊させれば海上保険料が上昇するため、スリランカ東岸にある小規模な港へ移送すると付け加えた。
この対応について少し考えてみてほしい。アジアでは、今や米国への信頼が極めて低下しており、主権国家の大統領が、自国の首都の港湾は、非武装の支援艦にとって危険過ぎる場所だと見なされるだろうと考えている。
今回の決定はあらゆる点で理解し難い。イランはすでに中立国を怒らせているが、米国までそうする理由はない。デナが脅威となるまでにはまだ数千マイルの距離があった。
攻撃が不可避だったとしても、なぜ友好国に最大限の恥をかかせる時と場所を選んだのか。これは危険な戦域拡大で、これまでイラン支持を口にすることを慎重に避けてきたモディ氏に圧力をかけている。米国とインドの関係は現在も過去も強固であるにもかかわらずだ。
軍は過ちを犯すことはあるが、外交でそれを修復することは可能だ。しかし、その努力も見られない。むしろ米政府は事態を悪化させようとしているように映る。
ヘグセス国防長官の好戦的な発言は大きな注目を集めているが、アジア人の耳には芝居がかっていて素人じみた響きに聞こえる。ナチス・ドイツと戦った英首相ウィンストン・チャーチルというよりクルド人を毒ガスで殺りくしたケミカル・アリだ。
なぜ米国は気にかけるべきなのか。米国は友好国の基地や港、上空通過権を必要としているからだ。どれだけ資金を積んでも、滑走路や港湾を無から生み出すことはできない。
インドや他の国々で長らく米軍との兵たん協定を主張してきた人々でさえ、そうした考えを再考し始めている。こうした合意は全て、米国が、付与された特権を乱用しない責任ある成熟した国家であるとの暗黙の前提の上に成り立っている。その信念はデナと共に沈んだ。
(ミヒル・シャルマ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。ニューデリーのオブザーバー・リサーチ財団のシニアフェローも務めています。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:A Ship Attack Has Shaken Asia’s Faith in the US: Mihir Sharma(抜粋)
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