経営不振が続く日産自動車が、かつて国内のマザー工場とも位置付けられた追浜工場(神奈川県横須賀市)での車両生産を2027年度末に終了することを決めた。市場の急速な変化に対応できなかった結果で、日産だけでなく日本経済の屋台骨である自動車産業が抱えるリスクも暗示している。

敷地面積約170万平方メートル。東京ドーム約36個分、米ニューヨークのセントラルパークのおよそ半分に相当する巨大自動車工場がその役割を終える、とのニュースに地元では衝撃が走った。

「想像していた最悪のシナリオが来ることになってしまった」。追浜工場近くの商店街で三代にわたって青果店を営む藤田雄二さん(62)はそう話す。

1961年操業開始の同工場からは「ブルーバード」など過去のさまざまな日産の名車が世に送り出され、世界初の量産電気自動車(EV)となった初代「リーフ」もここで生産された。多くの雇用をもたらし小学校の社会見学先の定番ともなっており、地域の生活や経済に深く根付いている。

藤田家でもこれまで20台以上の日産車を所有、横須賀市を本拠に活動する日産野球部の勝敗を気にかけてきた。生産停止となれば「この商店街もこれからどうなるか分からない」と肩を落とした。

かつて顧客のニーズを的確に捉えた効率的なものづくりで世界を席巻した日本の自動車メーカーは電気自動車(EV)やソフトウエアなど新技術の登場もあり、米テスラや中国の比亜迪(BYD)など新興勢力に市場シェアを奪われ始めている。追浜工場と、それとともに歩んできた地域住民の姿は、日本の製造業全体にとっても競争激化と業界再編の時代が到来したことを告げる警鐘となっている。

東京商工リサーチの調査によると、日産の再建計画「Re:Nissan」に関して日産グループに関連する売り上げがある525社のうち、約半分が自社にマイナスの影響があると回答した。対応策としては取引体制の見直しを挙げた社が最も多かった。採用や賃上げ、設備投資の見直しや人員削減の検討などの意見もあり、影響が広がる可能性がある。

倒産は増加

日本では近年は大規模工場の閉鎖はまれだったが、競争の激化により倒産や合併が増える可能性も否定できない。帝国データバンクによると、2024年度の国内自動車部品メーカーの倒産件数(負債1000万円以上)は32件と、この10年で最多を記録した。

帝国データの篠塚悟氏は、追浜工場の生産停止で日産の取引先の部品メーカーにも影響が出てくると指摘。今後生き残るのはEVや自動運転など新しい技術での競争で対応できる会社であり、業態や技術の転換、合併・買収(M&A)などで生き残りを図っていく必要があるとした。

追浜工場

日産は追浜地区にある研究所やテストコース、試験場などについては今後も事業を継続する。地元では工場の跡地利用としてリゾート施設やテーマパーク、防衛産業用途での活用などさまざまな臆測が飛び交うが、日産から正式な発表はまだ出ていない。

日産労組・日産労連の浅倉圭一中央書記長によると、追浜工場の従業員約2400人のうち何人が操業を継続する九州にある日産の工場に移れるかは未定だ。

横須賀市の上地克明市長は7月に日産のイバン・エスピノーサ社長兼最高経営責任者(CEO)と面会し、跡地の活用について、雇用の創出や地域の活性化など、横須賀市の発展に資するような跡地の活用となるよう、できる限りの配慮を求めた。

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