(ブルームバーグ):米会員制量販大手コストコホールセールは、経口中絶薬「ミフェプリストン」を全米500カ所余りの店舗で取り扱わない方針を決めた。宗教的信念に基づきこの薬を販売しないよう同社に求めていた活動家団体は、決定を歓迎した。
コストコは発表資料で、同薬に対する消費者の需要は確認されていないと説明。保守系団体からの圧力が今回の決定に関与したかについてはコメントを控えた。
こうした宗教系団体の連合には、アイダホ州に本拠を置く信仰ベースの上場投資信託(ETF)最大手インスパイア・インベスティングやキリスト教系のアライアンス・ディフェンディング・フリーダム(ADF)のほか、オハイオ、テキサス、ネバダ、ユタなどの州の財務長官や金融当局者が含まれる。同連合は昨年、コストコに対しミフェプリストンの販売を開始しないよう求めていた。
ADFの企業エンゲージメントチーム法務顧問のマイケル・ロス氏は「非常に大きな勝利であり、今後1年でさらに成果を積み上げたい」と述べた。

同氏によれば、今後は人工妊娠中絶が合法な州の薬局でミフェプリストンを販売しているウォルグリーン・ブーツ・アライアンスやCVSヘルスに重点を置くという。中絶が違法な州の居住者も、合法とされている州から郵送で中絶薬を入手することができる。
同連合は昨年、コストコのほか、クローガーやウォルマート、アルバートソンズにもミフェプリストンの販売を手控えるよう求める書簡を送っていた。
クローガーはこれまで同薬を提供したことはなく、規制状況を引き続き注視するとしている。ウォルマートとアルバートソンズも現時点で同薬を販売していない。両社はコメントを控えた。
コストコの第3四半期(5月11日まで)の利益は予想を上回り、経済の不確実性が強まる中でも忠実な顧客がブランドを支えていることを示した。また、直近の年次総会で、自社のDEI(多様性・公平性・包摂性)方針への保守派の反発に対し毅然(きぜん)とした姿勢を示したことも評価されている。今回の決定により、この薬を巡る激しい論争が拡大する可能性がある。
ニューヨーク市のランダー会計監査官は昨年7月、市の年金基金を代表し、中絶薬の販売許可を申請するよう求める書簡を小売り各社に送付。この動きが、保守系団体がミフェプリストンの販売抑制を呼びかけるきっかけになったとロス氏は話している。

ランダー氏のオフィスの広報担当は「コストコがミフェプリストンの販売を拒否したのは残念で、短絡的な判断だ。『需要が弱い』という名目で、米食品医薬品局(FDA)が承認し安全性が証明された医薬品へのアクセスを提供しないことで、顧客を孤立させ、同社の信頼性を損なう恐れがある」とコメントした。
連合側は活動継続を表明している。インスパイアの企業エンゲージメント部門ディレクター、ティム・シュワルツェンバーガー氏は「勢いはある。今こそ他の小売業者に目を向ける好機だ」と語った。
アマゾン・ドット・コムは現時点で同薬を提供しておらず、シュワルツェンバーガー氏は同社が販売を始めないよう働きかける意向を示した。アマゾンはコメント要請に応じなかった。
ウォルグリーンもコメントを控えたが、自社ウェブサイトの情報に言及した。そこには、「ミフェプリストンへのアクセスに関する米連邦最高裁の判断により、当社はFDAの指針の下で同薬の販売を継続できる」と記されている。
CVSは発表文で、「厳格な認可手続き」を経た上で、同薬の販売は合法な一部の州で行っていると説明。「当社は女性の健康を支援・促進してきた長い歴史があり、今後も女性特有の健康ニーズに応えることに注力していく」とした。

原題:Costco Forgoes Sale of Abortion Pill, Revving Up Religious Group(抜粋)
--取材協力:Jaewon Kang.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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