ここ1年ほど、スマートフォンに次々と表示される「次なるビッグトレンド」を目にするたび、正気を失いそうになる。無害そうな流行ですらそう感じるのだ。「Labubu(ラブブ)」とは何か。ドバイチョコレートはブランド名なのか、それとも単なるチョコバーの一種なのか。ベンソン・ブーンとは誰で、私たちに何を求めているのか。

最初は、これもまた年を取った証拠なのかと思った。だが今の若者も、多くの流行に同じように困惑しているように見える。SNSでは、10代や20代の戸惑いそのものがネタになっており、「ラブブ」「ドバイチョコレート」「ソニーエンジェル」「マッチャラテ」「ラブアイランド」「クランブルクッキー」など、意味不明な流行語が続々と投稿されている。

こうした言葉を一つも認識できなくても心配はいらない。知っていても理解の助けにはならないからだ。なぜそれが作られ、多くの人に知られるようになったかという裏話は、人気の決め手ではなさそうだ。もっとも、裏話が全くないものもある。

例えばラブブは、中国の玩具メーカー、泡泡瑪特国際集団(ポップマート・インターナショナル・グループ)が販売する、いたずらっぽい笑みを浮かべたベビーモンスターのシリーズだ。1体およそ28ドル(約4100円)で、「ブラインドボックス」と呼ばれる箱で販売。どの色や衣装のラブブが出てくるかは購入してからのお楽しみだ。

このシリーズは2019年に登場したが、もとになった児童書は米国では出版されていない。それにもかかわらず米国で人気が出たのは、Kポップグループ「ブラックピンク」のリサがラブブ好きで、インスタグラムにたびたび投稿している影響が大きい。本当にそれだけだ。

ショッピングモールにオープンしたポップマートの新店舗前で、ラブブを求めて列を作る人たち(ベルリン、7月25日)

それでもラブブの販売急増は1年以上にわたって続き、ここ数カ月は入手しにくい状況だ。その希少性もあって、偽物が大量に出回り、本物に並ぶ人気となっているようだ。

もう一つの例はドバイチョコレート。このチョコバーは、ピスタチオクリームとパリパリの焼き菓子がミックスした緑色のチョコレート菓子で、22年にドバイ在住のチョコレート職人、サラ・ハムーダ氏が考案した。

人気に火を付けたのは23年末に「TikTok(ティックトック)」に投稿された動画だ。若い女性がこのチョコバーにかぶりつく様子が映っている。ネットでは「ドバイチョコレート」と呼ばれ、模倣品がすぐに登場した。24年の年間を通じて、このチョコを初めて食べたという投稿が相次いだ。

大ヒットの条件

もうお分かりだろう。製品やアイデアが大ヒットする条件が、さりげなく大きく変わってきたということだ。これまではどんなにとっぴなブームでも、流行した理由を論理的に説明できた。

1980年代に人気となった「キャベツ畑人形」は、自分に似ている人形を持てるという斬新さが受け、親たちは自分の子どもにぴったりの人形を探そうと必死だった。90年代の「ビーニーベイビー」人気は、製造元Ty社による人為的な品薄戦略だけでなく、米イーベイの登場が影響した。収集品を転売することで簡単に利益を得られる可能性が関心を呼んだ。

しかし現在のトレンドは、従来のモデルとは完全に別物のようだ。これまでは製品と、実際の生活やそれに対する考え方との間に何らかの関係があることが大きなブームを巻き起こす条件だった。だが今はSNSの論理に置き換えられた。アルゴリズムによって表示された投稿に「いいね」やコメント、シェアで反応しなくても、スクロールを数秒でも止めれば、それが拡散につながる。

こうした状況下で広まるトレンドは、刺激的であることが何よりも重要だ。奇妙、かわいい、おいしそう、派手、不可解-そんな要素はかつて流行の条件の一部に過ぎなかったが、今では大流行になるための第一条件になっている。

本来こうした刺激は、派手なものに敏感な子ども向けのマーケティングで効果を発揮したが、今は大人にも効き目がある。アルゴリズムが選んだコンテンツは戸惑いをもたらすため、本来なら大人に備わる識別力や自制心、忍耐力が働きにくくなる。その結果、多くの人が以前より子どもっぽくなってしまっている。

ドーパミンの影響

ジャズ評論家で音楽史家テッド・ジョイア氏は24年のエッセーで、こうした傾向を「ドーパミンカルチャー」と表現し、ネット生活は何よりも刺激をもたらしていると指摘。「最も特徴的なのは、大文字Cのカルチャー(客観文化)や気楽な娯楽の要素さえなく、衝動的な行動に置き換えられていることだ」と記している。

ジョイア氏によれば、絶え間ない刺激に慣れた人は、退屈や不安を避けるため、より強い刺激を求めるようになる。今、最も話題の流行の一つにドバイの名がついているのは象徴的だ。世界的ブランドとしてのドバイは、文化的伝統や場所を意味せず、ゴールドの高級車や一獲千金の計画といったイメージを示す。もしドーパミンカルチャーが地図上に存在するとすれば、ドバイとラスベガスがその座を争うだろう。

とはいえ、ここ最近目立つトレンドには、少なくとも一つの共通点がある。どれも物理的なモノであり、現実の世界で触れ合う必要があるということだ。SNSはわれわれを、延々とスクロールを続け、プラットフォームから抜け出せなくなるゾンビのような存在に変えようとしているかもしれない。

だが多くの人は、何か手に取れるものを求めているようだ。巨大ハイテク企業が躍起になっても、インターネットは現実世界の代替にはならず、それがもっと現実に近づくことも多くの人は望んでいない。問題は、現実の生活がネットとそれ以外にもはや分かれておらず、2つの世界の折り合いをどうつけて生きていくか、われわれ一人ひとりに委ねられていることだ。

少なくとも、あるお菓子や玩具が急速に普及している状況は、個別にアルゴリズムが働いているものの、何らかの共通の現実が下から湧き上がってくることを示すサインでもある。それもあってか、ラブブやドバイチョコが本物かどうかをほとんどの人が気にしていない。

本物の共同体に比べれば貧弱なつながりかもしれない。だが重要なのは、TikTokのスクロールをやめて家の外に出るきっかけになるということなのだ。

(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)

原題:TikTok Trends Are Driving Random Consumer Spending Spikes(抜粋)

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