(ブルームバーグ):半導体の生産に使うガス製造企業の工場火災で、影響が長期化すれば半導体メーカーの生産体制に支障が出てくる可能性を指摘する声が上がっている。
関東電化工業の渋川工場(群馬県渋川市)で7日、火災が発生した。同社の発表によると、三フッ化窒素(NF3)製造設備内での火災で従業員1人が死亡、1人が負傷した。2系列ある設備のうち、1系列の設備の一部が破損し、当局の指示で操業を停止している。
NF3は半導体製造のエッチングや成膜工程で使われ、チャンバーと呼ばれる容器を洗浄するために使われる。広報担当者によると、同社の国内での生産シェアは9割以上という。
岩井コスモ証券の斎藤和嘉シニアアナリストによれば、関電化はソニーグループやキオクシアに加え、韓国サムスン電子や米マイクロン・テクノロジーなどに自社製品を供給しており、長期化すると半導体メーカーが工場の稼働を落とさなければならない事態に陥る可能性を指摘する。特に「人工知能(AI)需要で高稼働率が続くメーカーの逼迫(ひっぱく)感は強くなるのではないか」との見方を示した。
半導体は原材料や製造装置を含め、特定の企業が高いシェアを持つ場合も多い。1社の供給が止まっただけでも半導体や半導体を使うさまざまな製品の生産に影響を及ぼすことがある。2020年に宮崎県延岡市の旭化成子会社の半導体工場で起きた火災で、自動車の生産をはじめ、幅広い業界に影響が出た事例もある。
今回のケースについては、現時点で影響は出ていないようだ。キオクシアホールディングスの広報担当者は、複数社から購買し、在庫もあることから直ちに生産影響は出ないと認識しているとした。自社の7-9月期業績予想への影響もない見通しだという。ソニーGの半導体子会社、ソニーセミコンダクタソリューションズの広報担当者は調達先は開示していないとしてコメントを控えた。
脆弱性に懸念
NF3を巡っては、供給網の脆弱(ぜいじゃく)性を懸念する声もある。斎藤氏によると、NF3の生産はここ10年で海外勢が力を付けてきていることもあり、「国内メーカーはほぼ関電化に集中してきている」と話す。
三井化学は5月、価格競争の激化や原料費の増加などで事業継続のための収益確保が困難と判断したとして、26年3月末でNF3の生産を停止すると発表していた。
日本政府は国内の半導体部品供給網(サプライチェーン)強化を目的に、国内の半導体製造装置・材料メーカーに補助金を出す。24年には政府系ファンドの産業革新投資機構(JIC)が、半導体材料のレジストを生産するJSRを買収し、業界再編を訴えている。
ただ半導体の原材料や製造装置を手がける企業は多く、サプライチェーンの維持に向けた網羅的な支援は簡単ではない。
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