ロンドンの金融業界で、かつて大きな話題となった債券取引があった。高確率で手っ取り早く利益を手にでき、しかも利益には税金がかからないというものだ。

その取引とは、2061年満期の英国債だ。2022年には最も人気のある銘柄の一つで、ロンドンの金融街シティーのバンカーらは自己勘定取引で買い入れ、ブローカーは富裕層顧客による取引の急増を報告していた。

ところが、この取引は裏目に出つつある。政府支出に対する懸念から長期債が全般的に売られる中で2061年償還債は急落し、22年と比べて価格は半分以下となった。「押し目買い」は株式では功を奏しているが、2061年債はそれが危険な一手にもなり得ることを思い起こさせる。

「いつかなんとかなることを期待して、いまだにポジションを維持している向きは多い」と、RBCキャピタル・マーケッツのストラテジスト、メガム・ムヒッチ氏は指摘。2061年債はシティーで「最も話題に上っていた債券で、とても奇妙だった。ほとんど宗教じみていた」と語った。

 

2061年債はオーストリアの100年債などと同じく超長期債のニッチな部類に入るが、この資産クラスは全般的に価格が下落している。金利変動に賭ける高リスク投資を好むトレーダーの間で人気だったブラックロックの米長期債上場投資信託(ETF)は、「夫を亡くす女性製造機」という汚名まで付いた。

「61年債は全員が持っている」と、アクサ・インベストメント・マネジャーズのコア投資担当最高投資責任者(CIO)のクリス・イッゴ氏は述べた。ロンドンの金融業界が不況で崩壊した時にやっと報われる「解雇対策ヘッジ」のようなもので、確率の低い投資だと同氏は続けた。

多くの意味で、この債券は過ぎ去った時代の遺物だ。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)のさなかで金利が最低だった2020年に発行され、クーポン(表面利率)はわずか0.5%だった。他の債券と比べて利回りが低いため、価格下落は速かった。発行当時の価格は約97ポンドだったが、22年には50ポンドを下回り、今は25ポンドの最安値付近で推移している。

それでも、投機筋の多くは注視を続けている。英国最大の投資プラットフォーム、ハーグリーブス・ランズダウンで取引される96本の英国債のうちで、61年債は個人による売却注文数が最多、買い注文でも2番目に多かった。

RBCのムヒッチ氏は、「株式市場ではレバレッジ型3倍のナスダックやエヌビディアのリテール商品があり、その上昇余地は実に大きい。61年債は基本的にそれと同じだ」と述べた。

また、適切に取引されれば大きな節税効果がある。61年債はほとんど利払いのない異例の債券であるため、課税対象となる利子収入がほとんどない。さらに他の英国債と同様、高所得者の場合で24%に設定されているキャピタルゲイン税が免除される。これはとりわけ、大きな上昇余地を持つ低価格の債券には重要な意味を持つ。仮に61年債が21年後半の水準まで反発すれば、300%近いリターンが得られる。

絶妙のタイミングで売買し、利益確定に成功したトレーダーもいる。著名な債券個人投資家のマーク・テーバー氏は過去に61年債を何度か売買したが、リスクが高いため保有期間はわずか数週間だったことが多いという。

「61年債で資金が4倍になると信じるのは、恐らく少し非現実的だろう」との見方をテーバー氏は示し、「自分はこれが2-3年で大きな財産になるとは思っていない。むしろ緊張しながら売買している」と語った。

もう一つの魅力は、リセッション(景気後退)とインフレ低下で利回りが下がれば、理論的には61年債の価格は上昇するという点だ。英国のぜい弱な経済を踏まえると、多くのトレーダーにとってそれほど突飛なシナリオではない。低位株やオプションのように、ゼロになるリスクもない。36年後の満期まで待てば、61年債の元本は英政府が全額を返済すると保証している。

とはいえ、今年に入り61年債への熱狂はやや冷めた。主な理由は、期待していたリターンが得られていないためだ。一部の投資家は、やはり低クーポンの2046年償還債のような、あまり注目されていない銘柄の方が割安だとみている。インタラクティブ・インベスターのデータによれば、61年債への純資金流入額は前年の水準を下回っている。

インタラクティブ・インベスターの債券責任者サム・ベンステッド氏は61年債について、「英政府の財政的な信認がさらに揺らぎ、インフレが上昇を続ければ、投資家は今後も損失を被る恐れがある」と指摘した。

 

原題:London’s ‘Most Talked About Bond’ Turns Out to Be a Losing Bet(抜粋)

--取材協力:Helene Durand.

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