(ブルームバーグ):トランプ米大統領が好んで使う攻撃手法がある。標的に対して複数の角度からたたみかけるように攻撃して相手を圧倒する「フラッド・ザ・ゾーン(flood the zone)」と呼ばれる戦略だ。
相手はそれぞれの攻撃に反論するのが難しくなり、立場が弱まる。目下まさにその標的になっているのが、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長だ。
トランプ氏は自身の経済政策に一段と忠実に従うようFRBに圧力を強めており、その矛先は単に利下げ時期を巡る見解の対立にとどまらない。パウエル氏への個人攻撃に加え、FRB本部の改修費用を問題視し、少なくとも次期議長候補者1人と協議を行うなど、多方面から圧力をかけている。さらに本部改修計画を審査する委員会には政治任命の3人を起用した。

24日にはトランプ氏自らFRB本部を訪れ、進行中の改修工事を視察した。視察はテレビカメラを伴う政治イベントの様相を呈し、FRBに対する圧力を一段と強める格好となった。
トランプ氏は報道陣を前に「望むことはただ一つ、非常に単純だ。金利を下げなければならない」と述べた。
一方で、パウエル議長の解任については当面見送る考えを示唆。「彼は正しいことをすると思う。何が正しいかは皆分かっている」と話した。
トランプ氏はこれまでも、フラッド・ザ・ゾーン戦略を駆使して連邦機関の人員削減を断行し、司法制度を弱体化させたほか、ハーバードなど米名門大学をやり玉に挙げるなど、複数の標的に対して多方面から攻撃してきた。
2期目の就任から半年が経った今、トランプ氏は同戦略をFRBに対して本格的に試し始めている。パウエル氏に対する長年の不満にもかかわらず、トランプ氏がFRBを多岐にわたってここまで強力に攻撃したことはなかった。
トランプ政権で高官を務めたマーク・ショート氏は、FRBに対する一連の攻勢は、政治的には損をしない戦略だと語る。同氏によれば、今回の多方面からの圧力は最終的に3つの効果をもたらす可能性がある。まずパウエル氏が利下げに踏み切ればホワイトハウスの勝利だと主張できる。第2に、後任議長に対して政権の期待を明確に伝える効果がある。3つ目は、経済がトランプ氏の関税政策によって悪化した場合に責任を転嫁できるスケープゴートを確保できるという点だ。

重大な変化も
「フラッドゾーン」の名付け親は、第1次トランプ政権で首席戦略官・上級顧問を務めたスティーブ・バノン氏だ。大統領令や行政措置の連発で「反対派を圧倒する」手法として考案した。相手がついていけず、反論すらできない状態に追い込むことが狙いだ。
トランプ政権の圧力がいずれFRBに重大な変化をもたらす可能性もある。ヘリテージ財団の「プロジェクト2025」におけるFRBに関する章では、FRBの焦点をインフレとドルの安定に絞ることが盛り込まれた。またFRBのバランスシート縮小や銀行準備金に対する利払い停止も提案している。実際にそうなれば、FRBの責務と政策運営を根本から変えることになる。
もっとも、トランプ氏の最終目標ははるかに単純なものかもしれないとの指摘も関係者からは上がっている。トランプ氏は自身の利下げ意向にFRBを従わせたいと考えており、この点は改修現場視察でも繰り返し強調していた。
トランプ氏の全ての選挙選で主要幹部を務めたジェイソン・ミラー氏は「前回話した際に、トランプ氏がその件に言及した」と明らかにした。その上で「トランプ氏は経済を回復させることに鋭意集中しており、それが戦略の重要な部分だと信じている」と続けた。
原題:Trump Turns to ‘Flood the Zone’ Playbook to Attack Powell’s Fed(抜粋)
--取材協力:Steven T. Dennis、Max Chafkin.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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