日本銀行の内田真一副総裁は23日、日米関税協議の合意を受け、日本経済を巡る不確実性が低下し、2%物価目標の実現確度が上がるとの見解を示した。高知県金融経済懇談会で講演後の記者会見で語った。

内田副総裁は、日米合意は大変大きな前進であり、「日本経済にとって関税政策を巡る不確実性の低下につながる」と評価した。その上で、2%の物価安定目標の実現に向けた「確度は上がっていることに当然なる」との認識を示した。

一方で、米中や米欧などの交渉は残っているとし、「世界経済全体、日本経済全体にとっての不確実性は引き続き高い」とみている。先行きのリスクは上下双方向を見ていく必要があるとし、日米合意は「不確実性の低下につながると思うが、引き続きこのダウンサイドリスクも見ないといけない」と語った。

日米両国は米関税政策について、日本からの輸入品に米国が一律で課す関税率を15%、自動車・自動車部品の関税率も15%と従来の米側の方針から引き下げることなどで合意した。内田氏は、日米合意が日銀の利上げ路線をサポートする材料になる可能性を示唆した形だ。午前の講演では、直前に発表された交渉結果に対する直接的な言及はなかった。

日銀は30、31日に金融政策決定会合を開き、最新の経済・物価見通しと金融政策運営を議論する。2025年度の消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)見通しの上方修正が検討される可能性がある一方、金融政策は現状維持が見込まれている。

内田氏は日米合意の内容を精査した上で、会合で議論する経済・物価情勢の展望(展望リポート)に反映させると発言。もっとも、前回の4月の展望リポートで示した経済・物価を巡るメインシナリオの構図に大きな違いはないとし、「引き続きその点を精査しながら、政策は決めていく必要がある」と語った。

日銀は政策判断で重視する基調的な物価上昇率について、米関税政策の影響による成長ペースの鈍化を受け、いったん伸び悩むと想定。その上で、2027年度までの見通し期間の後半には2%の物価安定目標と整合的な水準で推移することをメインシナリオとしている。

物価は上振れ

午前の講演では、経済・物価のメインシナリオが実現していけば、経済・物価情勢の改善に応じて「引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」方針を改めて表明。見通しが実現していくかは、「予断を持たずに判断していく方針だ」と語った。金融政策運営は、経済・物価の安定の観点から「上振れ・下振れ双方向のリスクに対して最も中立的な立ち位置に調整していく必要がある」とした。

物価動向について、今年度入り後の値上げの動きはコメ以外の食料品に広がっているとし、「消費者物価は、私どもや市場の予想よりも強めで推移している」と指摘。企業の価格設定行動の変化は外食などの周辺分野にも見られるとし、「その広がりを確認していきたい」と述べた。

(記者会見での発言を追加して更新しました)

--取材協力:氏兼敬子.

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