想定外のトラブルはチャンスに変わった。

任天堂の家庭用ゲーム機「スイッチ2」が発売された6月。ゲーム小売りの米大手ゲームストップでこれを手に入れた顧客は、不審な点に気づいた。箱を開けてみると、本体のスクリーンが破損している。箱の表にレシートを留めているホチキスの針が刺さっていたからだ。

ゲームストップにとっては悪夢のアクシデントだ。しかし同社は破損したスイッチ2の一つを、リテール価格の約500倍でチャリティーオークションに出品した。失態はこうして、ネットで拡散が拡散を呼ぶ「バイラル」現象に変わった。

損傷したスイッチ2は電子商取引(EC)大手のイーベイで、25万ドル(約3700万円)で落札された。米国での定価は、もちろん無傷のコンソールに「マリオカート」がついて499.99ドルだ。出品アイテムには黒いホチキスと、実際にスクリーンに刺さったホチキスの針も付けられた。針は「丁寧に取り出して保存した」という。

ゲームストップにとって今回のオークションは最新の「バズる」現象となった。同社は2021年のミーム株ブームの象徴的存在。ゲーム小売店から、トレーディングカードなどコレクターズアイテムに重点を移している。

ライアン・コーエン最高経営責任者(CEO)は15日、経済専門局CNBCとのインタビューで、損傷したコンソールは「基本的にコレクターズアイテムになった」と述べた。この騒動はインターネット上で「ステープル(ホチキス)ゲート」と呼ばれている。

事件が起きたのは6月5日の深夜、ニューヨーク市スタテン島のゲームストップ店舗でスイッチ2が発売された直後だった。「熱意が過剰な店員が」商品が入った複数の箱にレシートを無理矢理ホチキスで留めたと、ゲームストップは説明している。

破損品を買わされた顧客からはすぐに苦情が相次ぎ、ステープルゲートはソーシャルメディアでトレンド入りした。ゲームストップは直ちに商品を交換したが、ホチキスによる最初の犠牲となったスイッチ2をオークションに出すことを思いついた。ミームブームの代表格としてユーモア精神で危機をチャンスに変えた格好だ。オークションの売上金は小児専門の病院ネットワークに寄付される。

オークション品には「ゲームストップが製品発売時に公式にホチキス留めした最初のコンソール」であることを証明する、コーエン氏の署名入り文書も付けられた。問題のホチキスは「小売り業界のレジェンド」と表現されている。

入札が始まるとコーエン氏は、応札額が6桁に達したら自分の下着も付けるとソーシャルメディアで公約。7桁に達すれば、落札者をマイアミに招待し、マクドナルドで昼食を食べながら商品を手渡ししたいと述べていた。

一連のパフォーマンスは、ゲームストップをコレクター「行きつけの場所」にする戦略と合致している。熱狂的な個人投資家層とのつながりを活かし、そのコミュニティーのためのイニシアチブを追求する戦略だ。同社は「ポケモン」などのトレーディングカード事業の拡大に注力し、ビットコインなど暗号資産(仮想通貨)にも投資している。1-3月(第1四半期)決算では、コレクティブル(収集品)関連の売上高が前年同期比55%増加した。ハードウエアとソフトウエアの売上高は、いずれも約30%落ちている。

原題:GameStop Switch 2 Blunder Goes Viral With 49,900% Auction Markup(抜粋)

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