「米国に失望することは決してない」。トランプ米大統領は7日、14の貿易相手国に宛てた書簡をこの言葉で締めくくった。だが東京では、石破茂首相が失望どころか、激怒してもおかしくない状況だ。

トランプ政権が4月2日のいわゆる「解放の日」に広範な関税措置を発表すると、日本はいち早く米国との協議に乗り出した。以後、数カ月にわたり交渉を重ね、首相特使の赤沢亮正経済再生担当相はトランプ氏や政権幹部との協議のため、7回も渡米している。

日本は過去5年間、最大の対米投資国であり、安全保障面でも極めて重要な同盟国だ。それにもかかわらず、3カ月前に提案されていた関税率より1ポイント高い25%の税率を課されることになった。

さらに追い打ちをかけるように、日本はカザフスタンやミャンマーなど、米国にとって優先度の低い国々とひとくくりにされた。

8月1日から実施予定の関税率は国ごとに異なるものの、各国首脳宛てに送付された書簡の文面はほぼ同じで、「これまで閉ざされてきた市場を開放せよ」と日本に求める文言まで含まれていた。だが、その意味するところは曖昧なままだ。

一夜にして、日本は敬意を払うべき国、つまりトランプ氏の言い方に従えば「タフ」な交渉相手から、「甘やかされた」国へと格下げされた。トランプ氏は石破氏を「ミスタージャパン」と呼んでいるとも言われている。

日本は当初懸念された35%の関税率を免れたものの、数カ月にわたる協議の末に待っていたのはさらなる脅しだった。

韓国でも、最近就任した李在明大統領が不満を抱いても不思議ではない。韓国政府は米国が問題視する非関税障壁の是正に取り組んでいるが、大統領選前の政治的混乱が足かせとなっていた。

日本側はいち早く交渉に応じた国に有利な条件を与えると示唆したベッセント米財務長官の言葉を信じて、先行者利益を期待していた。しかし、ふたを開けてみれば、韓国と同じ関税率となった。

東京とソウルの市場はほとんど動揺せず、いわゆる「TACO(Trump Always Chickens Out=トランプはいつも尻込みする)」トレードに乗じる動きが見られた。すぐに分かったのは、この書簡が7月9日に設定された期限の事実上の延長であるということだ。

日本にとって厄介なのは、石破氏が決して受け入れられないとしている25%の自動車関税が、すでに発動されていることだ。そのため、今回の発表がもたらす最大の影響は、中国包囲網における最重要パートナーである日本との信頼関係をさらに損なうことだろう。

石破氏はこれまで驚くほど粘り強く交渉に臨み、米国との誠実な対話を重ねてきた。しかし、生真面目過ぎたのかもしれない。お世辞や多少の誇張の方が、トランプ氏を相手にするには効果的だった可能性もある。

同氏への対応では、ソフトバンクグループの創業者、孫正義氏のやり方を参考にすべきだったのかもしれない。そうしていたなら、日本政府は今直面しているトランプ氏の真意を読み取る難しさという最大の問題を回避できた可能性もある。

すでに日本の報道では、米交渉チーム内の意見の不一致に日本側が困惑していると伝えられている。例えば、「日本の全てのガレージにフォードのピックアップトラックを」などとトランプ氏の耳に心地よい言葉で時間稼ぎをするのも賢明だったかもしれない。

7月20日投開票の参議院選挙という大きな山場を控え石破氏は、譲歩したとか農家を切り捨てたとかいった印象を有権者に与えるわけにはいかない。それでも、米国側が示した今回の対応が同氏にとって有利に働く可能性もある。いじめっ子には、誰でも反感を抱く。

一方で、7月末に予定されている日本銀行の金融政策決定会合で利上げが実施されるという期待は、今から捨てた方がよさそうだ。

長期的な影響はまだ見通せない。トランプ氏が突然方針を変え、日韓やその他の貿易相手国を再び友好国と呼ぶ展開も十分にあり得る。こうして常に判断を先送りする姿勢は、実際には脅しを本気で実行する気がないことの表れかもしれない。

だが、こうした絶え間ない虚勢は、長い歳月をかけ築かれてきたパートナー間の信頼を着実にむしばんでいる。そうした関係は決して「コピペ」できるものではない。

(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:US Copy-and-Paste Tariffs Will Rile ‘Mr. Japan’: Gearoid Reidy(抜粋)

コラムについてのコラムニストへの問い合わせ先:東京 リーディー・ガロウド greidy1@bloomberg.netコラムについてのエディターへの問い合わせ先:Ruth Pollard rpollard2@bloomberg.net

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