(ブルームバーグ):米国債の強制売却リスクを巡る懸念が香港の年金基金に広がる中、格付投資情報センター(R&I)は米国債の格下げを検討する状況にはないとの見解を改めて強調し、最上位格付け「AAA」の維持は妥当との認識を示した。
R&Iで米国債を格付けする原一樹チーフアナリストはブルームバーグのインタビューで、トランプ政権による関税政策や地政学リスクといった懸念はあるものの、貿易や金融取引で中心的な役割を果たす「基軸通貨ドルへの信認は揺らいでいない」と述べた。
香港の強制積立年金制度(MPF)の運用資産1兆3000億香港ドル(約24兆円)は、米国債がAAA格付けであれば10%超の組み入れが可能だ。トランプ米大統領は4日、大型減税・歳出法案に署名した。債務と財政への懸念は強く、ムーディーズ・レーティングスは5月に米国債を格下げした。この結果、AAAはR&Iだけとなり、同社が格下げすると香港の年金は米国債の売却リスクに直面する恐れがある。
米国債の格付けに関して、原氏は「経済力で米国は世界で比類ない位置にある」と語り、「基軸通貨という強みが資金調達を支えている」とも指摘した。今後の評価では、米国の財政運営に対する信頼性や、ドルの信認が焦点となる。R&Iは定量的な財政指標に加え、制度の持続性やソフトパワーといった定性的な要素も重視している。
コンサルティング会社マーサーのアジア投資責任者、アデリン・タン氏によると、もしR&Iが米国債を格下げした場合、MPFでの米国債を10%以下に抑えるため約20億ドルを売却する必要がある。国内投資家を主な顧客とするR&Iの格付けを香港の年金基金が活用していることについて、原氏は「問い合わせを受けて初めて知った」と語り、「想定外だった」とも述べた。
R&Iでは格付けの見直しは原則年1回で、米国債は2月に現状維持とした。重大な影響があれば臨時で審議する場合もあるが、現時点ではその必要はないとしている。
--取材協力:Echo Wong.
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