トランプ米大統領は、利下げを求めて自らが連邦準備制度理事会(FRB)に圧力をかけていることが、実際のところ利下げを一層困難にしていることを認識している。それだけでなく、来年5月に任期切れを迎えるパウエル議長の後任候補の立場も損なっている可能性がある。

「利下げを望む人物」を後任候補に指名すると公言することで、トランプ氏は指名前から次期議長候補の正当性を損なっている恐れがある。一般の人々や投資家は、その後任候補が中銀の独立性を守るのかトランプ氏の要求に屈するのかについて疑念を抱くことになるだろう。

パウエル議長の特別顧問を務めた経験があるジョンズ・ホプキンス大学金融経済学センターの研究員、ジョン・ファウスト氏は「指名を得るためにどういった約束や暗黙の了解、あるいは目配せやうなずきがあったのかと世間は疑うことになろう」と指摘。「次期FRB議長にとっては非常にまずいことだ。FRBの信認にとっても非常に悪い」と述べた。

NY証券取引所内 5月7日

ホワイトハウスのデサイ報道官は、「欠陥のある政策決定への懸念を表明するのは」言論の自由を規定する米憲法修正第1条に基づくトランプ大統領の権利だと、電子メールでの声明で主張。「それには、わが国の経済回復を妨げている金融政策に対するものも含まれる」と述べた。

パウエル議長はトランプ氏からの攻撃に直接的な反応は示してきていない。1日には、「議長としての任期は10カ月余り残っている。私およびFRB当局者全員が望んでいるのは、物価安定と最大限の雇用、金融安定を備えた経済を実現することだけだ」と語った。

トランプ氏はソーシャルメディアで先月、パウエル議長に対する「私の強い批判が、金利を引き下げるという彼が本来すべきことの実行を一層困難にしていることは十分理解している」と述べた。

パウエル議長批判を展開するトランプ大統領(動画)

FRBはかつて外部からの圧力に屈したことで、痛みを伴う教訓を得た。

1970年代の深刻なインフレは、FRBがニクソン大統領(当時)の圧力をはねのけられなかったために起きたと多くの識者は考えている。その後79年に就任したボルカーFRB議長が、インフレを沈静化した。

トランプ大統領は先月、パウエル議長の後任候補として3、4人が頭の中にあると述べた。また、「金利を今の水準に維持しようとか、そういう考えの人間は選ばない。利下げを望む人物を指名する」と語った。

後任候補として名前が挙がっているのは、ベッセント財務長官やケビン・ウォーシュ元FRB理事、ウォラーFRB理事、ハセット国家経済会議(NEC)委員長、デービッド・マルパス世界銀行前総裁。

ベッセント、ハセット、マルパス各氏は、FRBが既に利下げを再開しているべきだというトランプ氏の見解に同調。ウォラー氏は今月にも利下げの可能性があると述べている。同氏はまた、中銀の独立性が重要だとの発言もしている。

調査会社LHマイヤー/マネタリー・ポリシー・アナリティクスのエコノミスト、デレク・タン氏は「候補者はトランプ氏を満足させる一方で、FRBの独立性を守り、物価安定の使命を守る意思があることを市場に納得させられなければならない。両方を同時にこなさなければならず、難しい」と指摘した。

原題:Trump Is Already Making the Next Fed Chair’s Job Harder(抜粋)

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