おわりに
以上のとおり、今回の被用者を対象とした調査では、若年女性においては、BMIが18.5未満と低くても「ふつう」と認識する傾向が、他年代の女性や男性と比べて顕著だった。これは、冒頭に紹介した資料の指摘と整合的であり、「ふつう」の水準が、男女とも若年ほど、また男性より女性で、痩せている方に位置していることが示唆された。BMIが低いのに、「太っている」と認識するような大きな乖離は限定的だった。
一方、BMIが22以上25未満の範囲、すなわち日本肥満学会で「普通体重」とされる範囲であっても、中高年女性において「肥満」と認識する傾向がみられた。これも女性の「ふつう」が、男性と比べて痩せている方向に位置していることによると考えられるが、この傾向は年齢が高い女性ほど顕著だったので、BMIが18.5未満の女性が「ふつう」と認識するのとは異なる理由によると考えられる。たとえば年齢を重ねることで、若い頃と同じ体重でも体型が変化する等の実感があるのかもしれない。特に女性は、加齢に伴うホルモンバランスの変化や更年期以降の脂肪の付き方の変化に対する戸惑いや違和感を抱きやすく、それが体型認識の厳しさに繋がっている可能性がある。
BMIが25以上においては、男女とも34歳以下と35歳以上とで大きな差があるが、それ以上の年齢では差はほとんど差がない。これは、中高年以降の体型の変化の実感のほか、40歳から始まるメタボ健診(特定健診・特定保健指導)の影響が考えられる。日本では肥満対策が先行しており、メタボ健診において、特定保健指導の対象とされる条件にBMIが25以上であることも含まれる。そのため、BMIが25は、実際1つの区切りとなることはメタボ健診対象年齢ともなれば多くの人が認知している。
場合によっては、「痩せ=美」という価値観以上に、「BMI25以上=生活習慣病リスク」という認知が広く浸透している可能性が考えられる。冒頭で紹介した資料でも指摘されているとおり、BMIが高い人で生活習慣病リスクが高まることは事実であるが、「痩せていれば心配がない」といった誤解も広く浸透している可能性が考えられ、痩せていることへのリスクに気づきにくい環境となっていることが考えられる。
こういった性・年齢によって、体型に対する認識が異なるのは、女性に限らない。今回の結果では、男性も、年齢別にみれば若年ほど痩せている方に「ふつう」が位置していることが伺えた。また、BMIが25以上の男性のうち4~5割が「ふつう」と認識しており、女性と比べると、太っている方に「ふつう」が位置づけられていると考えられる。
つづいて、BMIや体型に対する認識と行動の関係についてみると、「肥満」と認識している人はダイエットを目的とする運動や食事管理をとる割合が高い一方で、BMIが低くてもダイエット目的の行動をとっている層が一定数存在していた。BMIが低くてもダイエット目的の行動をとっているのか、あるいはダイエットを行った結果、BMIが低くなったのかは、今回の調査だけでは明らかでない。しかし、若年では体型やBMIの値にかかわらず、運動や食事管理に気を配り、体型をコントロールしようとする意識が強いとすれば、「ふつう」と思う水準を正しく認識することが重要であると考えられる。さらに、その「ふつう」とされる水準が、実際には健康リスクを伴うほど低い場合、本人が気づかないままリスクを抱える可能性もある。
体型に対する認識が異なる背景には、健康状態がBMIだけでは測れないことが知られている一方で、特に、若年や、健康状態が良い時期に、自分について、体重(BMI)以外の健康指標を得る機会が限られている現状があると考えられる。FUS対策の推進においては、BMIや体型よりも、低栄養リスクや栄養指標の可視化に焦点を当てることが効果的ではないだろうか。
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(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松容子)